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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
人と動物を襲う
感染症

NOVEMBER 2007


 新種のウイルスであることはわかったが、ヘンドラの町で起こった出来事の謎がすべて解けたわけではない。次の段階として、馬や人を死に至らしめる前、ウイルスがどこに潜んでいたのかを突き止めなければならない。さらに、ウイルスがどうやって姿を現したのか、なぜヘンドラの町で1994年に発生したのか、といった疑問も明らかにする必要がある。

 ピーター・リードは、牝馬が病に倒れた場所に私を案内してくれた。かつて牧草地だった場所に、似たような形の住宅が整然と並んでいる。昔の面影はほとんど残っていないが、ある通りの行き止まりに円形の広場があり、その中央にイチジクの古木が一本立っていた。どうやら牝馬は、亜熱帯の強い日差しを避けようと、その木の下に日陰を求めたようだった。

「あれです。あの木が諸悪の根源です」とリードが言った。このイチジクの木に、コウモリが集まっていたというのだ。

人と動物に共通する感染症

 感染症は大昔から、私たちの身近にある。生態系という入り組んだ構造の中で生物と生物、種と種を結びつける、天然のセメントのような作用をもつ要素なのだ。生態学者から見れば、感染症を引き起こすウイルスなどの病原体は、ライオンなどの捕食者と大差はない。捕食者は獲物を外側から食べる大きな生物であるのに対し、病原体は獲物の体を内側から蝕む小さな生物だ。感染症などと言うと恐ろしく感じるかもしれないが、生態系の中で見れば、ライオンがヌーやシマウマ、ガゼルを捕らえて食べるのと、さして変わりはない。

 しかし、状況がいつも同じとは限らない。

 普段はヌーやシマウマを狙うライオンが、ときにウシや人間を襲うこともあるように、病原体も獲物を変えることがある。自然界には思いもよらないことが起こるものだし、中には変わり者もいる。状況が変わっていつもの餌がとれなくなれば、急きょほかの獲物を探すこともあるだろう。こうして病原体が動物から人に感染し、運悪く人が病気になった場合、その病気は「人獣共通感染症」と呼ばれることになる。

 人獣共通感染症というのは、なじみのない言葉かもしれない。だが、この言葉の意味を知っていれば、鳥インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)のニュースの裏にある生物学的な背景や、感染症が流行するしくみがぐっと理解しやすくなる。人獣共通感染症は21世紀のキーワードの一つとして、今後いやでも耳にすることになるだろう。

 たとえば、エボラ出血熱は人獣共通感染症だ。また、腺ペスト、黄熱、サル痘、ウシ結核、ライム病、ウエストナイル熱、マールブルグ病、インフルエンザの多くの株、狂犬病、ハンタウイルス肺症候群、そしてマレーシアでブタと養豚業者を死に至らしめた「ニパ」という新たなウイルスによる感染症も、すべてそうだ。

 病原体が別の種にうつること自体は珍しいことではない。人がかかる感染症の約60%は、動物もかかる。その中でも特に知られているのが狂犬病だ。多くの地域に広がっていて、発病後の死亡率はきわめて高い。根絶・抑制に向けて何世紀も人々が努力し、国際社会が協力して取り組み、感染と発病のしくみが科学的にはっきり解明されているにもかかわらず、いまだに数多くの人々が狂犬病で亡くなっている。

 その他の感染症は新しく、どういうわけか散発的にしか発生しないし、どこで発生するかも予測できない。ヘンドラと同様、犠牲者もそれほど多くはなく、せいぜい数百人までだ。流行が終わると、発生しない時期が何年も続く。

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