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特集

トンガに迫る
決断のとき

NOVEMBER 2007

取材の現場から

筆者の取材ノート
マシュー・ティーグ
写真提供=Matthew Teague
トンガを訪れたのは初めてですか?そこは、思っていた通りの場所でしたか?

今回が初めてのトンガ訪問でした。それまでは、旅行とか観光とか、いかにも欧米人が抱いていそうなイメージを持っていました。太平洋と聞くとつい、ハワイのような場所を想像してしまうのです。でもトンガでは、リゾートなどがずらりと並んでいるような光景には出会いませんでした。太平洋に浮かぶ、隔絶された場所なのです。

取材中の最高、最悪、そして奇妙な体験を教えてください。

わずか2、3時間の間に、最高でいて、しかも最悪で、奇妙な体験をしました。

トンガの3つの群島の中で、おそらく一番手つかずで、自然のままの姿を留めているハアパイ諸島を訪れた時のことです。車よりも馬の数の方が多いような場所でした。諸島の中で一番開けている島リフカ島で、ロニという名前の農夫に出会いました。ロニ本人はリフカ島に住んでいましたが、離れた島で家畜を飼育しているということでした。毎日、干潮になると彼は馬に乗り、ブタの世話をするために島と島とを隔てる海を渡っていくのです。ロニは、私が同行することに同意してくれました。

彼らが乗るのは半ば野生の馬で、背にまたがる時は助走をつけて、素早く飛び乗っていました。見ている分には、優雅で美しい光景です。やがて私の番が来ました。馬に乗ったことがなかった私は、切り株の上に立ち、まるで奇妙な踊りを踊っているかのような不恰好なざまをさらす羽目になりました。馬も、こいつは何をやっているんだ、と思ったことでしょう。なんとか私も馬の背にまたがると、島へ渡るため、海に入っていきました。

馬の背にじかに乗り、ロープを手綱にして、干潮の海のサンゴの上をばしゃばしゃと渡っていく。とにかくすばらしい体験でした。島へと続く海の深さは馬の背ほどまであり、馬の首と私たちの足の周りを流れていきます。

ロニは、私が米国フィラデルフィア在住だということを知っていました。馬に乗っている間、彼はほとんど黙っていましたが、ある時、ゆっくりと、真剣な様子で「ロッキーはいいね」と言ったのです。二人とも笑ってしまいました。フィラデルフィアは映画「ロッキー」の舞台となった街です。こんなに遠い場所までも、映画のヒーロー、ロッキー・バルボアはついてくるんです。ロニが言いたかったのは、「私も、あなたの町について少しは知っているんです」ということであって、これにはじんときましたね。

彼のブタに餌を与え、ビーチで少し時間を過ごしたあと、リフカ島へと引き返しました。岸に上がった頃には、新米の馬乗りとして、自分の腕前にちょっとした自信を感じていました。鞍を使わず、ロープの手綱で、1日馬に乗っていたのです。「きっと生まれつき才能があるにちがいない」などと思い始めていたのです。

固い路面までやってくると、いきなり馬が駆け出しました。きっと、もうすぐ帰り着くことを感じ取ったのでしょう。馬が3歩と進む前に振り落とされ、ものすごい勢いで地面に叩きつけられました。それはもう、マンガっぽいほどで、頭の周りを小さな星がぐるぐる回っているような感じでした。道端に生えている背の高い草の中に身を転がし、馬に踏みつけられないようにするのがやっとでした。

ロニがやってきて馬から飛び降り、草むらの中の私を見つけました。痛いやら、恥ずかしいやら。自信過剰になって失敗し、彼の馬を逃がしてしまったのです。怒っているだろうと思いきや、彼は私の上にかがみこみ、「かわいそうに」とだけ言いました。地面に横たわりながら、なんて優しい人なんだ、と私は驚くばかりでした。

自分の背中の具合がおかしいことに気づいたのですが、考えてみると、病院へ行く手段はひとつしかありませんでした。第2次世界大戦当時のプロペラ機、ダグラスDC-3です。道中、飛行機は揺れまくり、もし無事に目的地に着けたなら、少なくとも語れる話のネタはできたな・・・などと思っていました。でも、もうひとつ、私の中に変化が起きていました。私にとってリフカ島は、忘れがたい場所となったのです。

国王との接見について、もう少し話を聞かせてください。

とにかく礼儀正しくて、誠意があり、格式の高い方でした。言い換えれば、気高いという感じでしょうか。ひとつ興味を引かれたのは、王だけに限定されたトンガの言語があることです。一般のトンガの人々が使っている言語とは異なり、この、王家限定の言語を操れる人はごくわずかだそうです。これはおもしろい、と思いました。


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