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特集

豊穣の大地
ラテンアメリカ

NOVEMBER 2007


 まず私たちはカリェホン・デ・ワイラスの上空を飛んだ。ここは緑に覆われた渓谷で、頂上に雪をいただく荘厳なブランカ山脈と、波のような尾根が続く、褐色のネグラ山脈の間を走っている。ここは、ペルー最古のチャビン文化揺籃の地でもある。チャビン文化の高度な農業は、その後のモチェやインカにも伝わった。アンデスの人々は、ここを「世界のへその緒」と呼ぶ。

 またアンデス山脈に連なるこの地には、南米最高峰の一つで、ひときわ美しいワスカラン山が6768メートルの威容を誇っている。この山の氷や雪はふもとに息づくすべての生命をはぐくみ、時には破壊もした。

 ラテンアメリカの大地は、こうした相矛盾する要素に満ちている。海岸、砂漠、密林、山、湿地、群島などの多彩な地形が、まるでバイキング料理のようによりどりみどりにひしめき、時にはまったく異質な風景が隣どうしに並んでいたりするのだ。

 真っ白な雪に覆われたアンデス山脈の高峰からそう遠くないところに、シダがうっそうと茂るアマゾンのジャングルが広がる。ここでは、毎年11月になると、川が氾濫してジャングルを水びたしにする。そうなると、ジャガーもナマケモノも、ピンク色のアマゾンカワイルカと一緒に泳ぐはめになるのだ。

 無数の戦争が繰りかえされ、さまざまな苦悩に引き裂かれてきたこの大陸も、上空から眺めればのどかに見える。眼下に広がる大地はひと続きで、どこを見ても境界線はない。これこそ、19世紀に南米諸国の独立に貢献した偉大なる解放者シモン・ボリバルの夢見たラテンアメリカだ、と私は思った。それは空高くそびえるアンデス山脈と、網の目のように広がるアマゾン川やその支流が織りなす、広大な大地だ。

 ここには国境もなければ、国籍もない。一つの風景が次の風景と溶けあい、都会や町が現れては消えていく。谷はやがてそびえ立つ山へと変容し、川は雪どけ水を緑豊かなジャングルに注ぐ。

 ボリバルが夢見た、すべての国々が協調して一つにまとまった、より力強いラテンアメリカ世界はついに実現しなかった。彼は異国に逃れ、軽蔑され、一文無しになって世を去り、ラテンアメリカ世界は、多様化の道をひた走った。

 だがラテンアメリカ世界で夢を見たのはボリバルだけではない。スペイン人による征服以前から、テノチティトランを都としたアステカ人や、フエゴ島を本拠地とする海の民、アラカルフなどは、世界征服という壮大な構想を描いていた。そしてスペイン人が中南米の富の獲得に乗りだすと、ヨーロッパ人はみな中南米に途方もない幻想を抱くようになった。15世紀のヨーロッパの知識人たちは、アマゾンには一つ目の大男や犬の顔をした化け物がいると想像し、黄金や永遠の若さを与えてくれる泉があると信じていた。

 ロバート・ハースが撮影した、夢の世界のようなラテンアメリカの風景は、かつての「発見の時代」の精神と、想像力をよみがえらせてくれる。ラテンアメリカ世界はいまも過酷な現実に苦しんでいるが、そこに暮らす私たちは、祖先と同じように、空の高みに昇ることを願い、たとえ実現の望みがなくても、奇跡が起こるのをじっと待っている。

 不思議なことに、高いところから眺めると、波乱万丈の人間の歴史から切りはなされ、人間世界の制約から自由になれる。空から地上を見ていると、見る者の心の中で変化が起きるのだ。人間は、揺れ動く大自然のほんのひとかけらにすぎない。空から見ると、地面に縛りつけられた、ありのままの人間の姿がわかる。それは巨大な地球の上の小さな存在にすぎないのだ。

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