/2007年10月号

トップ > マガジン > 2007年10月号 > 特集:マラッカ海峡の海賊たち


定期購読

翻訳講座

ナショジオクイズ

気候変動の研究施設があるグリーンランドは、どの国の領土?

  • ノルウェー
  • カナダ
  • デンマーク

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

マラッカ海峡
の海賊たち

OCTOBER 2007

文=ピーター・グウィン 写真=ジョン・スタンマイヤー

レー半島とスマトラ島を隔てるマラッカ海峡は、海運の要衝であると同時に、海賊の巣窟でもある。本誌記者が海賊たちの素顔に迫った。

 「ここにいても海の匂いがわかる」と、その囚人は防音の面会室で言った。だが、そんなことはまずありえない。ここはマレーシア北部にある刑務所で、海からは何キロも離れているのだ。

 その囚人の話はどこまでが本当で、どこからが嘘なのか、さっぱりわからない。無実を訴えたかと思うと、そのすぐ後に罪を認めたりする。パスポートの名前は「ヨハン・アリフィン」だが、マレーシア当局は偽名だと考えている。

 黒髪に白髪が混じっているのを見ると、44歳という年齢は嘘ではないのかもしれない。住所はバタム島とある。バタム島はシンガポールのすぐ南のインドネシア・リアウ諸島にあり、看守の話では、同じような罪状でつかまる連中には、この島の出身者が多いのだという。

 本名は不確かでも、この囚人が「ラヌーン」であることは間違いない。通訳によれば、ラヌーンという言葉には幾重もの文化や歴史的な背景があり、一言では訳せないという。だが、ここではあえて「海賊」と訳すことにする。

 彼が「海賊」と呼ばれるようになったのは2005年のことだ。マラッカ海峡を航行していたマレーシア船籍のタンカー「ネプリン・デリマ号」を9人の仲間とともに襲撃し、マレーシアの海上警察に逮捕されたのだ。このタンカーは、300万ドル(約3億6000万円)相当のディーゼル燃料7000トンを積んでいた。マラッカ海峡ではこのような襲撃事件は決して珍しくなく、2005年だけでも何度も起きている。

 マラッカ海峡は、インドネシアのスマトラ島とマレー半島を隔てる全長804キロの海峡で、ここを通るルートはインドと中国を結ぶ最短航路になる。ここは昔から海の男たちが集まってきた海峡であると同時に、長い歴史と豊かな文化をもつ独特の“海の王国”でもある。海峡には何百もの河川が注ぎこみ、沿岸には湿地が延々と続き、数えきれないほどの小さな島々や岩礁、浅瀬が点在する。最初に住みついた人たちは水上に集落を形成し、漁や交易、戦いなど、目的に応じた船を考案して、水陸両方での暮らしに順応していった。

1Next


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー