/2007年10月号

トップ > マガジン > 2007年10月号 > 二酸化炭素をめぐる新たな方程式

NATIONAL GEOGRAPHIC
ナショナルジオグラフィック日本語版のご紹介
便利でお得な年間購読のご案内

10月号



定期購読

ナショジオクイズ

Q:現在のEVとはまったく違いますが、電気で走る車はエンジンで駆動する車が登場した頃からありました。その当時、電気で走る自動車を手がけていた自動車工学者といえば誰でしょう?

  • ルイ・シボレー
  • エンツォ・フェラーリ
  • フェルディナント・ポルシェ

答えを見る



特集

二酸化炭素をめぐる
新たな方程式

OCTOBER 2007


温暖化を安定させる15くさび

 温暖化がもたらす破局を回避するための、基本的な枠組みは明らかだ。先進国は迅速かつ持続的に、二酸化炭素の排出量を大幅に削減する。それと同時に、中国やインド、その他の開発途上国に大規模な技術供与を行い、石炭を使わずに経済成長を実現できるようにする。だが、こうした急激な排出量削減は果たして可能なのか、誰もが疑問に思っている。

 温暖化の問題は、燃料電池やエタノールの利用といった新技術があれば解決できるというものではない。問題の規模を考えれば、対策は多ければ多いほどよい。様々な対策の可能性を探った好例が、米国プリンストン大学のスティーブン・パカラとロバート・ソコロウが2004年に米国の科学誌『サイエンス』に発表した、地球温暖化を安定させるための15の“くさび”だ。

 彼らの言う“くさび”とは、すでに実用化されているか、実用化のめどが立っている技術を使って、温暖化問題に抜本的な変化をもたらす対策のことだ。低燃費自動車、エコ住宅、風力発電、エタノールなどのバイオ燃料などはおなじみのもの。目新しいところでは、排ガスから炭素を分離して地下に貯留するシステムを備えた、新型の石炭火力発電所などがある。

 これらの温暖化対策に共通するのは、燃やすだけでエネルギーが得られる化石燃料とは異なり、次世代の燃料源は簡単には利用できず、もっと高価になるだろうということだ。世界全体で化石燃料から新しい燃料へエネルギーを転換するには巨額の費用がかかるが、無数の新しい雇用が生まれるのも確かだ。エネルギー転換が完了するころには、今よりはるかに洗練されたシステムができているかもしれない。

 また、生活の中でエネルギーを無駄づかいしている現状を改め、比較的容易な課題から取り組むべきかもしれない。例えば、今後10年間に耐用年数が過ぎる白熱電球を小型の蛍光灯に世界中で置き換えれば、15の対策の一つについては幸先のよいスタートを切ることができる。だが同時に、大型の風力発電用タービン(風車)を40万基も建設しなければならない。もちろん不可能な数字ではないが、実現するには相応のやる気が必要だ。

 ほかにも、日本やドイツの例にならって太陽光発電用パネルの設置に補助金を支給する制度を本格化したり、耕地の作付け面積を減らして、土壌から大気中に放出された二酸化炭素を再び地中に戻すといった課題もある。これらを同時に実行しなければならないのだ。

 もちろん、温暖化対策のすべてが技術的なものとは限らない。むしろ大半は私たちの日常生活に直結するもので、例外なく人類は生活スタイルを変えなければならないだろう。例えば、飛行機での移動は、最も急激に二酸化炭素排出量を増やしている要因の一つだ。しかし、白熱電球の使用をやめたり、ハイブリッド車への乗り換えには積極的な人々でさえ、世界中を移動するのにジェット機を使わないようにするのはなかなかできないことだ。

 今や世界中で当たり前になっている、飲食店のテイクアウトメニューの数々。ある調査によれば、それらが米国人の口に入るまでに、その材料は2500キロ近くも旅をするという。調理に使う油に加え、輸送に石油燃料をたっぷり使って“油まみれ”になっているというわけだ。こうした生活習慣を変える対策を考えださなければならない。

 おそらく現実的な唯一の解は、化石燃料価格の大幅な引き上げだろう。排出量の取引など、二酸化炭素削減の様々な対策によって、石炭やガス、石油の価格は徐々に引き上げられるだろう。そうなれば、経済的な理由から、エネルギーの無駄づかいは減るはずだ。

 化石燃料の価格を上げるには、二酸化炭素に課税するのが最も手っ取り早い。しかし、燃料は誰もが使うものなので、低所得者層ほど負担が重くならないような仕組みが必要だ。

 中国やインドなどの開発途上国に、石炭火力発電所の建設を見合わせ、環境に優しいエネルギーへの転換を図るよう説得するのも困難な課題だが、不可能ではない。国連の専門家会議が今年行った推定によると、今後25年間にエネルギーの転換に要する総コストは、毎年世界経済の0.1%強に当たる額でまかなえるという。この程度で済むなら安いものだ。

 地球温暖化は人類史上かつてない試練だ。次の世代と地球上の多様な生命が生存可能な未来を残すために、我々は劇的かつ持続的に、自ら進んで変わることができるだろうか。それができるなら、新しい技術と生活スタイルは強力な武器になる。ただしそのためには、素早く毅然とした態度で行動し、人類がこれまで見せたことのない分別を示さなければならない。我々は今、大人への入り口に立っているが、一人前になれる確証も保証もない。目の前にある可能性の扉は急速に閉じかけているが、今ならまだ希望が入りこむすき間はある。

Back2


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー