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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
バイオ燃料
実用案にもお国柄

OCTOBER 2007


 トウモロコシ由来のエタノールを見る限り、バイオ燃料にはあまり期待できそうもない。だが、ブラジルのサンパウロでは、希望のもてる光景に出会うことができる。車が多いこの都市では、運転手が渋滞でイライラしていても、アルコールがたっぷり入ったエンジンは、ほろ酔い機嫌でアイドリングしている。アルコールの供給源は、この国の広大なサトウキビ生産地帯だ。

 ブラジルでは1920年代から車の燃料にエタノールを使っていたが、70年代には国内で消費される石油の75%を輸入に頼るようになり、第1次石油ショックで経済は大打撃を受けた。

 そこで当時の大統領エルネスト・ゲイセルは大胆なエネルギー転換政策に踏み切った。政府は新設のエタノール工場に多額の補助金を提供。国営の石油会社ペトロブラスにはエタノールの補給スタンドを全国に設置させ、エタノール100%の燃料で走る国産車の生産を奨励するため優遇税制を導入した。結果、80年代半ばには、ブラジル国内で販売される車はほぼすべてアルコールだけで走るようになった。

 純粋なエタノールはオクタン価が113前後と極端に高く、ガソリンよりもはるかに高い圧縮比でよく燃えるので、エンジン出力が大きくなる。何より、政府の補助金のおかげで、ガソリンより大幅に安いのが魅力だった。

 とはいえ、ブラジルでもエタノールが低迷した時期はある。原油価格が下落した90年代初めには、エタノールの補助金が段階的に打ち切られる一方で、砂糖の国際価格が上昇。サトウキビからエタノールを作るより、砂糖にしたほうがもうかるようになり、アルコール燃料が入手困難になった。「車に燃料を入れるにも、2時間は待たされましたよ」と、サン・ベルナルド・ドカンポ市にあるフォルクスワーゲン・ブラジルの主任エンジニア、ホジェ・ギレーミは話す。

 10年後に原油価格が上昇に転じると、再びアルコール燃料が見直されたが、ブラジルの人々は過去の苦い経験から、完全にアルコールに切り替えることには慎重だった。このとき、ギレーミは上司から難題を与えられた。ガソリンでもエタノールでも走行可能な車を低コストで生産する方法を考えろ、というのだ。

 ギレーミのチームはフォルクスワーゲンに燃料システムを納入しているマニェティ・マレリ社と共同で、エンジンの電子制御ユニットの新しいソフトウエアを開発した。ガソリンでもアルコールでも、その混合燃料でも、最適な空燃比と点火時期を自動調整するシステムだ。

 フォルクスワーゲンは、サッカー大国ブラジルらしい「ゴール」という意味の名をもつ小型車ゴルにこの新機能を搭載し、2003年にブラジル初のフレックス燃料車(アルコールでもガソリンでも走れる車)として売り出した。これが人気を集め、ブラジルの他の自動車メーカーもフレックス車を生産するようになった。今ではブラジル国内で販売される車の85%近くがフレックス車だ。エタノールはガソリンよりも、1リットル当たり約60円安く、フレックス車の燃料の大半はここ何年もエタノールだけだ。

 実のところ、ブラジルのエタノール・ブームを支える本当の柱は、エンジン技術ではなくサトウキビだ。トウモロコシは、実に含まれるでんぷんに高価な酵素を加えて糖に分解して発酵させるが、サトウキビは糖分を20%も含むため、収穫後ほとんど手間をかけずに発酵させることができ、1ヘクタールの畑からトウモロコシの2倍以上の約5700~7600リットルのエタノールが得られる。

 世界屈指の規模を誇る砂糖とエタノール工場、ウシナ・サン・マルチーニョは、“エメラルド砂漠”と呼ばれる、サンパウロ州中部の主要なサトウキビ生産地の中心に位置する。この巨大な工場では、年間700万トンのサトウキビから、国内で車の燃料として消費されるエタノール30万キロリットルと、おもにサウジアラビアに輸出される50万トンの砂糖を生産している。また、国内外で高まるエタノール需要に応じるため、作付面積が急速に拡大しているゴイアス州のサトウキビ生産地帯にも、300万トンの処理能力をもつエタノール専門の工場を建設中だ。

 エメラルド砂漠では、1回の作付けでサトウキビが7回収穫され、蒸留工程で出た排水は肥料として再利用される。ブラジルのエタノール工場、サン・マルチーニョでも、電気を電力会社に頼っていない。

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