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インドネシアの
生命あふれる海

SEPTEMBER 2007


 しかし、ラジャ・アンパットは旅行会社のポスターに載るような明るくきらめく海ではない。海中はサンゴ礁の繁殖に欠かせないプランクトンがいっぱいで、濁って見通しが悪いことが多い。洗濯機の中に潜っているかと思うほど流れは激しく、そのなかを生きものたちが乱れ舞う。

 クリ島近くのサンゴ礁を泳いでいたときのこと。海の色が陽気な青から陰気な緑に変化し、天候の急転を告げる風のように鋭い流れが押し寄せてきた。流れを避けてサンゴ礁のくぼみに泳ぎ着くと、そこは別世界だった。赤やオレンジ色のうちわを広げたようなサンゴの森が広がり、周りをピンクや紫のソフトコーラルが取り囲んでいる。アカネハナゴイの群れが舞い、ツバメウオの編隊がソフトコーラルを巡回していた。

 ボンベの空気が少なくなった。ゆっくりしてはいられない。私は勢いを増した流れにもまれながらボートへ向かい、片手でカメラを握りしめ、もう片一方の手で、空中ブランコの曲芸師のようにボートのハシゴをつかんだ。そこから眺めた島は、波紋を引きずって動いているように見えた。

生き物を育む大洋の交差路

 ラジャ・アンパットはなぜ、生命のわき出る泉となったのか。
「とにかく生息環境がすばらしい」と、CIの生物学者マーク・エルドマンは言う。「広く海岸に接したサンゴ礁や、急に深くなる海、栄養たっぷりの湧昇流が上がってくる入り江、海底の砂地やマングローブの林など、すべてが昔からほぼ手つかずのままなのです」

 生物が豊富になったきっかけは氷河期にさかのぼる。海面の水位が下がり、孤立した小さな海がいくつも形成され、そこで様々な種が進化し、多様化していったのだ。この海域は現在、太平洋とインド洋に生息する種の交差路になっていて、いまだにどれほどいるのかは未知数である。

 2006年の調査で、ニューギニア島のファクファクとチェンドラワシ湾の周辺に、ラジャ・アンパット並みに豊かな海洋生物が生息することがわかった。少なくとも56の新種も見つかった。ラジャ・アンパットやこれらの海域を守っていくため、CIとネイチャー・コンサーバンシー、WWF(世界自然保護基金)インドネシアは、政府の支援を得て1万8000平方キロ以上のエリアを「バーズ・ヘッド・シースケープ」と指定した。守るべき貴重な海といった意味合いで、大半はまだ法的には保護されていないが、政府は今年、ラジャ・アンパットで新たに9000平方キロにおよぶ七つの海洋保護区を設けた。

 バーズ・ヘッド・シースケープには、2500の島とサンゴ礁があり、1300種近くの魚類、600種のサンゴ、700種の軟体動物が生息、さらにはウミガメの繁殖地でもある。一方で、海外の漁師がフカヒレ目当てに乱獲するせいで、サメの数は減っている。爆薬を使う地元の漁法もサンゴ礁を脅かす原因の一つだが、最近では保護派の村人が増え、廃止へ向かっている。

 生命の海ラジャ・アンパット。その名は「4人の王」という意味をもつ。数世紀の昔、ハルマヘラ海の西方、現在のモルッカ諸島の君主が、4人の男にこの地域の統治権を与えた。現在、ラジャ・アンパットで最も大きい四つの島が、そのときの王の象徴となっている。彼らが治めた海は、まさに王家にふさわしい珠玉の海となったのである。

デビッド・デュビレ(David Doubilet)は、世界の海とサンゴの撮影に人生をささげてきた水中写真家。1972年以降、本誌で60本以上の特集を担当し、2001年には優れた科学写真に贈られるレナート・ニルソン賞を受賞した。

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