/2007年9月号

トップ > マガジン > 2007年9月号 > 特集:引き裂かれるパキスタン


定期購読

ナショジオクイズ

現在の歯ブラシの原型が登場したのは15世紀末の中国。当時、ブラシの部分に用いていたのはどの動物の剛毛?

  • ブタ
  • パンダ
  • ハリネズミ

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

引き裂かれる
パキスタン

SEPTEMBER 2007

文=ドン・ベルト 写真=レイザ

スラム教徒の祖国として、英領インドから独立して60年。イスラム穏健派と過激派の対立、たび重なるインドとの戦争、歴代の軍事政権などに翻弄され続けるパキスタンの人々の生活を追った。

 パキスタンを二分するだけでなく、世界を引き裂きかねない亀裂があるとすれば、それは首都イスラマバードの西27キロにあるマルガラ峠だろう。峠の南東には、インドの豊かな農業地帯が広がっている。一方、峠の西と北は中央アジアの荒涼とした山岳地帯で、馬に乗った男たちが家畜を追い、他部族を襲う。彼らが畏れるのは唯一の神アッラー。「敵は捕虜にせず、その場で殺す」――それが掟だ。

 パキスタン中央部にあるマルガラ峠の崖で、西部の山岳地帯とインダス川渓谷が出合い、まったく異なる二つの古い文明が衝突する。また、ここでは二つの相矛盾するイスラム信仰がぶつかる。比較的戒律がゆるく、寛容なインドのイスラムと、アフガニスタンとの国境地帯の原理主義的なイスラムだ。今のパキスタンでは、この二つの拮抗する勢力がぶつかりあって不穏な“揺れ”が起きている。パキスタンで生じたその揺れは余波となってロンドン、ニューヨークにまで及ぶ。イスラム穏健派と過激派の対立は、本質的にはこの二つの文明、二つのイスラムの対立であり、世界のムスリム(イスラム教徒)を引き裂く、より大規模な対立の縮図といえる。

 建国から60年、人口1億6000万人の97%がムスリムであるにもかかわらず、平和な国としてまとまったことは一度もない。たび重なるインドとの戦争、パルベズ・ムシャラフ大統領率いる現政権などの歴代の軍事独裁政権に翻弄されてきた。また、パンジャーブ人、シンド人、バローチ人、パシュトゥーン人など多様な民族をもつパキスタンでは、民族間の抗争も絶えない。

 国家をまとめるために、歴代の政府は莫大な軍事費を投じてきた。その結果、パンジャーブ人中心の軍上層部が特権階級となって腐敗政治が横行し、公正な裁判、医療、教育や安全、そして将来への希望という国民の基本的な欲求が放置されてきた。こうした現状に対する不満が噴き出す中、軍事政権に批判的な弁護士などは、文民政権による民主的な統治への回帰を求めて抗議行動を繰り広げている。

 一方、2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロから6年が経ち、イスラム過激派は、国家の将来像をめぐって、国民の多数を占める穏健派に挑戦状をたたきつけている。隣国アフガニスタンを実効支配していた武装勢力タリバンの残党がパキスタンに逃げ込んで勢力を伸ばした。今年はパキスタンの5、6都市で相次いで自爆テロが発生、建物が炎上し、通りが血に染まることもあった。アフガニスタンとの国境に近い北西部のワジリスタンの山岳地帯では、国際テロリストのネットワークであるアルカイダの戦士たちが巡回して、米軍のスパイとおぼしき人物を、片っ端から殺害している。

1Next


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー