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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
ニューオーリンズ
未来を模索する街

SEPTEMBER 2007

文=ジョエル・K・ボーン Jr. 写真=タイロン・ターナー

型ハリケーン「カトリーナ」の来襲から2年。米国南部ニューオーリンズは、地盤沈下や海面上昇、ハリケーンの大型化に悩まされている。さまざまな難題を抱えながら、復興に向けた街の模索が続く。

 大型ハリケーン「カトリーナ」は2005年に米国南部を襲い、自然災害としてはこの国で過去最悪の被害をもたらした。被災直後の現地では、多くの人々が復興に向けて固い決意を見せていた。だが、専門家や技術者の間にはいま、悲観的なムードが広がりつつある。今回の嵐はほんの序の口で、同じような災害がいずれは必ず再発するとわかってきたからだ。被害を食い止めるには、国が手厚い支援を際限なく注ぎ込むしかないだろう。

 ルイジアナ州ニューオーリンズは、米国でも低地の多い地域として知られ、今も年間で最大2.5センチのペースで地盤が沈み続けている。すでに海抜マイナス5メートルに達したところもある。

 また、自然の緩衝地帯として都市を嵐や高潮から守っていた湿地が、次々に水没している。ミシシッピ川の氾濫防止と輸送の利便性向上のために上流にダムと堤防が建設された結果、下流のニューオーリンズに達する堆積物や栄養分が減ってしまったからだ。ルイジアナ州全体では、1930年代以降、沿岸部が5000平方キロ近く(東京都の面積の2倍強)も水没した。2005年のハリケーン「カトリーナ」と「リタ」だけでも、合わせて562平方キロの湿地を消滅させた。

 そして何よりも脅威となっているのが、地球温暖化だ。近年の海面上昇は、約1万年前に氷河期が終わって以来、最も速いペースで進行している。次の世紀までに、海面は控え目に見積もっても1メートルほど上がるおそれがある。また、それより前に、海水温の上昇によってハリケーンが威力を増し、多発するようになるかもしれない。

 堤防など、洪水から街を守る構造物がいまだに復旧していないのも問題だ。この地域の堤防の建設と保守を担当している米国陸軍工兵隊によると、すでに10億ドル(約1200億円)もの資金をつぎ込んだにもかかわらず、カテゴリー3(最大風速50~58メートル)のカトリーナのような100年に1度のハリケーンに耐えるように堤防などを補強する工事は、2010年までかかるという。それ以上の巨大ハリケーンにも備えようとすると、さらに何十年もかかるだろう。それも、技術者が設計に同意し、議会が途方もない額の予算を受け入れたうえでの話だ。現状では、カトリーナよりも小さなハリケーンに襲われただけでも、ニューオーリンズは再び水びたしになるおそれがある。

 工事の難しさは、ペンシルベニア大学の地質学者、ロバート・ガイゲンギャックが大洪水の数カ月後に発した言葉にも表れている。世界でトップクラスの経済力と技術をもつ米国でも、カトリーナのような天災は防げない、と彼は政治家に告げた。「はっきり言って、私たちにはニューオーリンズを守る力がないんです」

 しかし、古き良きニューオーリンズでは、歴史と政治、そして郷土愛が大きな力をもっている。災害から学んだことを街の再建に生かし、街を別の場所に移すといった抜本策にはなじみがない。堤防を少し高くしてみたり、水害に見舞われた低地にまた同じような家を建て直したり、ハリケーンの進路がそれてくれることを願ったり――このような大災害の後にいつもやってきたことを、ただ繰り返すだけだ。

 ニューオーリンズ市民の中には、あきらめてしまった人もいるようだ。カトリーナ以前の人口の約3分の1が、まだ戻ってきていない。帰ってきても、復興途上の閑散とした街には犯罪が横行し、保険料は高騰する一方だ。そして、役所の複雑な手続きに悩まされたあげく、また同じ場所に家を建て直すしかない。

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