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メキシカンカウボーイの巡礼

AUGUST 2007

文=アレクサンドラ・フラー 写真=デビッド・アラン・ハーベイ

年1月、メキシコ中部では、白いカウボーイハット姿の男たちが馬に乗り、イエス・キリストの聖像がそびえるクビレテ山の山頂をめざす。

 メキシコ中部グアナフアト州は、現在と過去、現実と幻影が交錯する不思議な土地だ。目の前の風景は、過ぎ去った時代のひとこまのようにも見えるし、また死後の世界のようにも映る。たとえば、キリスト教の「公現の祝日」の前日にあたる1月5日の夜明け、グアナフアト市郊外の町エル・ロデオでは、そんな光景を目にするはずだ。

 土ぼこりが舞う牧場では、雄鶏たちが日の出を待ちきれないようにけたたましく鳴きかわし、数人のカウボーイが、元気いっぱいの馬にまたがって現れる。

 男たちは教会にでも出かけるように、真っ白なカウボーイハットをかぶり、真珠まがいのボタンつきのシャツを着て、皮のブーツをはいている。粗い仕立てのブーツは、ヘビ皮なのか、トカゲやワニの皮なのかがひと目でわかる。

 朝日を浴び、オレンジ色の砂塵を舞いあげ、鞍の金具をきらめかせて馬をあやつるカウボーイたちの姿は、騎兵隊のようにりりしい。

 だが、そのかたわらでは、あばらが見えるほどやせ細った1頭の雌馬がサボテンの木につながれ、首をうなだれている。この雌馬は、ちょっと前に仔馬を野犬に殺されてしまった。夢中になって、しきりに前脚で土をかいているその姿に、軍馬のような威厳はない。あたりには炊事の煙や、洗濯物の匂いが漂う。

 雌馬が急に暴れだし、カウボーイたちが祈りをささげ、奇跡が起きる――そんなことになっても不思議ではない光景だ。その一方で、いつものように雌馬が静かにたたずみ、カウボーイたちが馬からおりて大工仕事にとりかかり、雄鶏たちが巣に戻って眠りにつく、といった穏やかな日常が繰りかえされるようにも思える。

 だが、やはりここはメキシコ中部だ。やがて思いもよらぬ光景が繰りひろげられた。グアナフアトへ向かう道から、大きな岩が次々に川床をころがっていくような音が轟いてきて、たくましい雄馬や白黒まだらのロバにまたがったカウボーイの大行列が、薄明のなかから現れたのだ。するとエル・ロデオの町のカウボーイたちは、待ちかねたように馬の腹を蹴り、牧場を出てこの行列に加わった。

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