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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
最後の温帯雨林
再生の行方

AUGUST 2007


 トンガス国有林の実像に迫る今回の旅には、二人の野外調査の専門家が同行してくれた。アラスカの州都ジュノー在住のリチャード・カーステンセンとアイシー海峡の孤島に住むボブ・クリステンセンだ。旅の始まりは6月。潮の香りが漂う入り江から急斜面が立ち上がり、青みがかった氷河と黒い岩山へ続く。この壮大な光景を前にすれば誰でも、自分の存在がいかに小さいかを思い知らされる。カーステンセンらはフィールドワークの達人で、地形を一目見ただけで動植物の分布を読み取り、海の変化も見逃さない。沖に出ていた私たちはボートを急がせ、荒波の来ない入り江へと避難した。

 上陸するとすぐに移動を開始し、シトカトウヒやヘムロック、レッドシーダなどの巨木をめざして突き進む。二人は温帯雨林の専門家でもあり、米国の辺境を調査しているのだ。

 今回の調査旅行にはハイテク機器をふんだんに使用している。帽子のポケットにGPS(全地球測位システム)装置を縫い込んであり、衛星で特定した現在位置の情報を、ベルトの防水ケースに収納したPDA(携帯情報端末)で受信する。PDAの画面上の地図には、自動的に補正された位置情報が表示される。画面をペン先などでタッチすれば、植生の分布や野生動物の生息環境の良好度、地質、三次元の地形データを地図に重ねて表示できる。この調査の目的は、伐採が予定されたエリアとその周辺の生物資源を正確に評価することにある。

 カーステンセンは歩きながらも、生態系のカギを握る植物を見つけては教えてくれた。時には青葉をかじり、地面にはいつくばってコケ類を調べ、学名をすらすらと口にしたりする。彼が目にした花弁や葉は、脳内に描かれた生態系に組み込まれる。私にはただの地面の段差にしか見えない場所も、氷河の重みで沈んでいたかつての海岸線が、氷河の後退後に隆起したものだと一目でわかってしまう。「後氷期隆起」と呼ばれるこの現象は今も進行中で、トンガスの地面はじりじりと上昇し続けている。

 一方、クリステンセンは録音機能付きのデジタルカメラに音声メモを吹き込みながら、先を急ぐ。動物の通った跡や糞を探し、その数を数えて地図に書き込んでいく。また、古い骨や木に付着した毛を丹念に調べ、針葉樹の巨木を写真に収めていった。イエローシーダとレッドシーダの推定樹齢は少なくとも1000年、シトカトウヒの大木は樹齢およそ700年だという。トウヒの幹はとてつもなく太く、私たち3人が両腕をいっぱいに広げて手をつないでも、囲いきれなかった。

 夕暮れが近づくと、土砂降りの雨の中、力を合わせて黙々と防水シートを広げ、手際よくキャンプを設営した。テントからはノートパソコンの画面の光がこぼれる。中をのぞくと、床面の半分がケーブル類や周辺機器で占領されている。その真ん中に陣取った彼らは、大自然だけでなく“コンピューターおたく”的な世界にも精通しているようだ。森で集めたデータをまとめる作業に大忙しの二人は、シトカ自然保護協会の支援を受けたこの活動を、トンガス現地調査プロジェクトと呼んでいる。

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