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海のユニコーン
イッカク

AUGUST 2007


 カナダでは、アドミラルティ入江での減少ぶりが深刻だ。1984年には、この入江で夏を過ごすイッカクが1万5000頭いたと推測されているが、2003年の空からの調査では、わずか5000頭しか確認できなかった。カナダの漁業海洋省は、この調査は大きな群れを見逃していて、結果には疑問が残るとみている。だが科学者が集まった特別委員会は、入手できるすべての調査報告を検討した結果、カナダにおけるイッカクの状況は「危機的な状態にない」から「とくに憂慮すべき」に転じたと判断した。

 同委員会の報告書には、データ不足を嘆く表現が随所に見受けられる。イッカクの群れは、いくつあるのか? 猟師たちは1年間に何頭のイッカクを殺しているのか? 今のところ、こうした基本的なことさえわかっていないのである。

 ここ数年、カナダの北極地方で殺されるイッカクは年平均500頭と報告されている。報告されないまま犠牲になったイッカクも数百頭はいるだろう。撃ち殺されたが陸揚げされなかったイッカクの数となると、もうお手上げだ。

 イッカク猟が行われるのは北の果ての海辺なので、外部の監視団を派遣するにも限界がある。地元民と信頼関係を築いて説得するには時間が必要で、漁業海洋省にはとてもそんな余裕はない。私は1カ月間、バフィン島北部で猟師たちと行動をともにしたが、そのあいだに漁業海洋省の担当官たちがイッカク猟を監視したのはほんの数日だった。彼らが見ているあいだは確実な獲物しか撃たなかったと、猟師たちは後で打ち明けた。こうした事情も、データの信頼性を損ねている一因だろう。

 イッカク猟を、イヌイットの自主管理にゆだねつつ、より正確に把握したい――そんな考えのもと、当局や狩猟団体は1999年に「コミュニティによる環境管理」と呼ばれる協力プログラムを立ちあげた。銃や罠で狩猟をするイヌイットたちの組織に独自ルールを決めてもらい、監視と取り締まりも一任するのである。試行プログラムは2007年秋に終了する予定で、漁業海洋省はこの取り組みを評価したうえで、今後の方向性を関連団体と協議することにしている。

 若くて経験の浅い猟師を訓練し、不必要に死んでいくイッカクを減らすことも緊急の課題だ。イヌイットも近頃では、狩猟技術を生活のなかで身につける機会があまりない。「イヌイット社会が大きく変化して、年寄りと若者の交流がなくなっているからだ」と、ある役人は語った。

 そんな現実の一端を、私も目の当たりにした。13歳の少年がライフルで1日中イッカクを撃ちまくったが、けがをさせるばかりで、結局1頭も陸揚げできなかった。そのあいだ、おとなたちは黙ってそばに立っているだけだった。

 厳しい掟を守りながら、狩猟文化を連綿と受けついできたイヌイットだが、ライフルの登場で事情は一変した。虐待としか言いようがないやみくもな狩猟をこのまま見すごすことは、イヌイットはもちろんのこと、彼らの生活と切っても切れない動物たちにとっても、利益にならない。

 今秋、国の野生動物保護担当者と猟師たちが話しあいのテーブルにつくが、これはまたとない変革のチャンスだ。新たな時代の流れのなかで、猟師たちは獲物を減らさないための昔ながらの知恵を思いだすべきだ。その努力を放棄することは、自分たちの誇り高き伝統を否定することにほかならない。

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