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特集

海のユニコーン
イッカク

AUGUST 2007


 猟はその日の午後に始まり、薄明かりのなか夜明けまで続いた。12時間にわたり、109丁ものライフルが火を噴いたのだ。ところが、翌朝数えてみると、氷の上に横たわるイッカクはわずか9頭しかいない。もっと命中しているはずなのにおかしいと思った私は、猟師たちに何頭仕留めたかをたずねてまわった。

 「2頭に当たったが、死ななかった」
 「7頭沈めたが1頭も引きあげられなかった」

  こんな話は一度や二度ではない。イッカク猟では、ライフル弾の命中数にくらべて、実際に手にする獲物が極端に少ない。どんなに腕の良い猟師でも、イッカクを仕留め、海から引きあげるのは大変な作業だ。まず、イッカクが水面に顔を出した瞬間に、頭か脊髄に弾を命中させなくてはならない。タイミングを誤れば海中に沈んでしまうし、急所をはずすと、よそに逃げてそこで絶命する(もちろん、生きのびることも多い)。私自身、撃たれたらしい傷跡があるイッカクを何度か見たことがある。

 20世紀なかばまで、イッカクをはじめとする海生哺乳類はイヌイットの生活の糧だった。肉と脂肪層は食料や燃料になるし、他の部位は縫い物の糸やテントの支柱、そりといった日用品の材料にもなる。猟師たちは必要な数だけイッカクをとり、余すところなく活用してきた。ところが、イヌイットが伝統的な移動生活をやめて町に定住しはじめると、現金収入を生む牙だけを目当てに、むやみにイッカクをとるようになった。いきおい捕獲数が増え、いずれは種の存続が危うくなることも懸念されている。

 北極の海に、いったいどれほどの数のイッカクが生息しているのか、正確なところはわからない。4万から7万頭という推測もあるが、安泰とはけっして言えない。ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で、イッカクは「取引を厳重に規制しなければ絶滅の危機にひんするおそれがある動物」に挙げられている。

 昔から、イッカクの長い牙は秘薬になると信じられてきた。角に解毒作用があるとされるユニコーンの伝説と結びつけられたためだ。この北極海でとれる「ユニコーンの角」は、中世には同じ重さの黄金の10倍もの価値があった。

 今日、イッカクの牙を売って猟師が手にする金額は1メートル当たり400ドル(約5万円)前後だ。アドミラルティ入江の沿岸の町アークティック・ベイで雑貨店を営むドン・オリバーは、2005年に7万5000ドル(約900万円)分ものイッカクの牙を買いとった。なかでも高値がついたのは一つの頭に2本の牙がついた珍しいもので、これには1万1000ドル(約130万円)もの大枚をはたいた。オリバーが買いとった牙は、オンタリオ州ノースベイでオークションにかけられ、美術品ディーラーや収集家に買いとられていく。

 専門家による生息数調査の結果、イッカクは全体としては十分な数がいるが、地域によっては著しく減少していることがわかった。原因はとりすぎだ。たとえばグリーンランド西岸の海域では、1986年に1万500頭も確認されたイッカクが、2002年には1500頭まで激減した。この間、グリーンランド自治政府は捕獲数をまったく制限せず、90年代を通して年間約750頭ものイッカクが同地で捕獲され続けた。

 深刻な状況が明らかになってくると、研究機関も警鐘を鳴らしはじめた。個体数を回復させるには、年間捕獲数を135頭未満に抑えるべきだという。これを受けてグリーンランド政府は、年に300頭という捕獲割り当てを設定。これに対し、研究者や保護団体は捕獲数をもっと減らすべきと主張したが、政府は逆に割り当てを385頭に引きあげる始末。これではイッカクは減少の一途をたどるしかない。

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