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特集

群れのセオリー

JULY 2007


「わが社にある最大のコンピューターを使っても、計算には4時間かかりますが、それでも午前6時には、その日の解決策が得られます」

 ただ、トラック運転手は、この新方式に慣れるまで大変だった。それまでは、プラントからいちばん近い顧客にガスを運べばよかったのだが、いまは遠くても、コストの安いプラントに向かわなくてはならない。

「なぜわざわざ150キロも離れたところに行かなくてはならないのか。運転手にしてみれば、理解しにくい話でしょう」とハーパーは言う。だが、おかげで会社は大幅なコスト削減に成功した。「それはもう大変な金額でした」

 アリのまねをして得をした企業はほかにもある。イタリアとスイスでは、トラックで牛乳や乳製品、灯油、食料品を運ぶとき、アリの餌とりルールを活用して、最適な配送ルートを見つけている。英国とフランスの電話会社は、交換局に仮想フェロモンを置いていくプログラムを用いて、最適な回線をすばやく見つけられるようにした。アリがフェロモンを残して、後続の仲間に道順を教えるのと同じだ。

 人間社会に応用できそうな群知能を持つ昆虫は、アリだけではない。ここは米メーン州の南の沖合に浮かぶ小さなアップルドア島。さわやかな風が吹くこの島で、生物学者のトマス・シーリーは、ミツバチの驚異的な意思決定能力を研究している。巣によっては5万匹がひしめくミツバチは、個々の意見の違いを乗りこえて、コロニーにとって最善の道を選べるのだ。

 シーリーたちは10年前から、セイヨウミツバチのコロニーを観察して、彼らがどうやって新しいすみかを選ぶのかを探ってきた。毎年春の終わり、ハチの数が増えすぎて巣が手狭になると、コロニーは分裂する。そして女王バチと数匹の雄バチ、それに約半数の働きバチが古い巣を飛びだし、近くの木の枝に集結する。そこから一部のハチが、新しい巣をつくる場所を探しに出かけるのだ。理想のすみかは南向きで地面から一定の高さがある木の“うろ”で、入り口は小さくても、奥が広ければ最高だ。一度決めたら、基本的にはもう移動しない。それだけに、どこを選ぶかが重要になる。

 ではハチはどうやって巣の場所を決定するのか。それを知るために、シーリーの研究チームはアップルドア島に4000匹のミツバチを持ちこみ、識別のため1匹ずつ塗料で点を打った。4000匹はいくつかの小さな群れに分かれている。そこで全長1キロの島に巣箱を置き、群れを放した。巣箱周辺には低木が生えているものの、高い木はほとんどなく、ほかに巣が作れるようなところはない。

 ある実験では、群れには小さすぎる巣箱を4個と、大きさがちょうどいい巣箱を1個設置した。最初はどの巣箱にも偵察バチが訪れた。彼らは群れのところに戻ると、互いに尻振りダンスをして、自分が見てきた巣箱へ行くようにうながす(ダンスには、巣箱までの道順を示す暗号が含まれている)。踊りが力強いほど、巣箱に高い評価を与えているということだ。やがて何十匹もの偵察バチが、それぞれ自分の気にいった巣箱で盛んにダンスをしはじめた。

 最終的な決定は、群れの大半が待機しているところではなく、偵察バチがいる場所で下された。特定の巣箱近くに集まった仲間が約15匹になったのを合図に、投票が成立したと判断した偵察バチは、この情報を群れに持ちかえった。「どの巣箱がいちばん早く15匹に達するかという競争でした」とシーリーは言う。

 巣箱が決まると、そこを支持していた偵察バチは群れのあちこちに散らばり、引っ越しすることを告げてまわる。こうして群れ全体が盛りあがったところで、ハチたちは新居に向かって移動を始める。もちろん行き先は、ちょうどいい大きさの巣箱だった。

ミツバチの判断は案外正しい

 選択肢をできるだけ増やす。いろんなアイデアを自由に競わせる。効率的に選択の幅を狭めていく。ミツバチのこうした意思決定戦略にいたく感心したシーリーは、勤務するコーネル大学でもこのやり方を活用している。

「学科長として教職員会議を運営するとき、ミツバチから習った方法を応用しています」。つまり可能性のあるアイデアをすべて出してもらい、それらを討議してから、どのアイデアがいちばんかを秘密投票方式で決めるのだ。「集団のなかで、最善のアイデアが自然と浮上し、支持を獲得するのを待つというのは、ミツバチのやり方そのもの。そうやって決まったことには、みんな素直に従うものです」

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