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特集

中国の即席都市
“勝ち組”の肖像

JUNE 2007


日用雑貨をつくる「世界の工場」

 温州空港の書店には、『恐るべき温州人』『温州人が金もうけで成功する50の秘密』といった本がずらりと並んでいる。

 温州人の商魂のたくましさは、せっぱつまった苦境から生まれたものだった。この地域の土壌は耕作に不向きだし、山がちな地形のために内陸部へはろくに道路が通じていない。そのため温州人は海に向かわざるを得ず、17世紀の明朝末期には、すでに交易が盛んになっていた。しかし1949年に政権を握った共産党は、海外との貿易を禁止し、ほとんどの私企業の活動を封じた。

 1980年代初頭に鄧小平の「改革・開放」政策が始まったときも、温州はほかの地域に遅れをとった。北京のように住民に教育が行きわたっておらず、上海のように海外からの投資を呼びこむ力もなかったからだ。経済成長を加速するため、政府が貿易と関税に特権を与える経済特区を設けることになったときも、選ばれたのは香港に近い深ツェン(シェンツェン)だった。

 だが温州には、“商魂”というかけがえのない資源があった。温州人は、家族経営の小さな作業場をいくつも設け、10人そこそこの従業員で単純な品物を生産してきた。そうした作業場が、時代とともにいっぱしの工場に発展し、温州はローテク産業の一大中心地になった。現在、中国で販売される靴の4分の1は温州で製造されている。世界的に見ても、ライターの70%は温州製だ。温州の経済活動の90%以上は民間企業が支えている。

 いまでは“温州モデル”として知られるこのビジネス・モデルは、浙江省南部に広がった。浙江省で起業している人の約80%は、正規の教育を8年以下しか受けていない。それにもかかわらず、ここは中国でいちばん豊かな省となったのである。上海、北京といった直轄市を除けば、住民一人当たりの所得は、都市部でも地方でも浙江省が国内で最も高い。貧しく不便だった地域から、世界有数の活力あふれる生産拠点に変貌した浙江省は、中国の奇跡的な経済成長をそのまま映しだしている。

 この1年間に私は何度も浙江省を訪れた。温州でレンタカーを借りて内陸部へ向かうと、さまざまな日用品の生産地が次々に現れる。まず目につくのがドアのちょうつがいの看板だ。ありとあらゆる大きさと種類のちょうつがいが、これでもかとばかりに宣伝されている。2キロほど進むと、看板の主役はプラグとアダプターに変わり、さらにスイッチ、蛍光灯、蛇口と続く。

 より内陸の橋頭(チャオトウ)では、高さ6メートルもある巨大なボタンの像にお目にかかった。人口わずか6万4000人のこの町には380の工場がひしめき、中国で作られる衣料用ボタンの70%以上を生産しているのだ。

 大塘(ダータン)は、世界中の靴下の3分の1を作っているし、菘厦(ソンシア)は年間3億5000万本の傘を世界に送りだす。

 上官(シャングアン)は卓球のラケット、分水(フンシュイ)はボールペンの一大生産地だ。変わったところでは、下斜(シアシエ)がジャングルジム生産で知られる。また世界のネクタイの40%はシェン州(シェンツォウ)で作られる。

 「日用品の海、お買い物のパラダイス」をスローガンに掲げる義烏(イーウー)という町では、あらゆる物が売られている。沿岸部から160キロも奥まった内陸部の町だが、世界中からバイヤーがやってきて、大量に商品を買いつける。スカーフだけ、ビニール袋だけを扱う一画もあれば、輪ゴムを売る店しかない通りもある。地元のショッピングモール、義烏国際商貿城には、3万軒を超す店が入っている。中東のバイヤーもたくさん訪れるこの町には、アラビア料理の大きなレストランが23軒も営業している地域まである。

 これまでは、浙江省の主な都市のうち、麗水だけはこの“日用品の町”に仲間入りできなかった。山あいのこの町には、オウ江(オウチアン)という川は流れているが、水深が浅くて大型船が入れず、工業化が著しい浙江省の最後の秘境と呼ばれていたからだ。だが中国一豊かな省にあるこの極貧の町にも、新しい高速道路がじきに完成し、投資家が押しよせるだろう。 

 工場の設計から3カ月後に再訪すると、高と王は機械の試運転をしていた。彼らはその後、中国南部の別の工場から熟練労働者を6人引きぬき、組立ラインを設置した。青緑色に塗られた長さ15メートル、重さ約5.5トンの機械が、角の部屋でむっつりと鎮座している。

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