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特集

中国の即席都市
“勝ち組”の肖像

JUNE 2007

文=ピーター・ヘスラー 写真=マーク・レオン

長路線をひた走る中国。人々は成功を夢みて競争し、都市部では高層ビルが急造される。生き馬の目を抜く中国経済の現実を浙江省に見る。

 工場の設計に取りかかったのは、午後2時30分のことだった。ここは中国浙江省の町、麗水(リューシュイ)。王愛国(ワンアイグオ)と高肖孟(ガオシャオモン)が借りた3階建てのビルは、まったくのがらんどうだ。白い壁に、むきだしの床。入り口には錠すらついておらず、誰でも勝手に出入りできる。麗水経済開発区では、どこもこんな感じだ。周辺のビルも構造部分ができあがっているだけで、道路は未舗装、その先に続く高速道路も未完成。銀色の大きな広告掲示板もまだのっぺらぼうのままだ。

 王と高は、叔父と甥の関係だ。二人は約130キロ離れた同じ浙江省南東部の温州(ウェンチョウ)から車を走らせて、ここ麗水にやってきた。目的は新しい事業の立ち上げである。「この地域はまだ開発が始まったばかりなんだ」。ビルの入り口で私を出迎えた高は、そう教えてくれた。

 ビルの1階には、建設業者と助手がいた。建築家や設計技師の姿はなく、巻尺や測量用具を持ってきた者もいない。高はまずタバコをみんなに勧めた。髪を短く刈りこんだ高は33歳。落ち着きがない男だが、叔父がそばにいるとよけい緊張するようだ。全員がタバコに火をつけたところで、高は肩掛けかばんからペンと紙を取りだし、外壁の位置をざっとスケッチした。

 いよいよ“設計”の始まりだ。高がペンを走らせると、たちまち壁が立ちあがり、工場の具体的なイメージができていく。2本の直線で区切った南西側の一角は機械室になり、その隣に化学物質の調合室、資材室、第2の機械室が続く。すると、図面を眺めていた叔父の王が「この部屋はいらんな」と言った。

 相談の結果、二人は部屋を一つ消した。こうして1階部分の設計は、わずか27分で完了した。さらに上階に移って設計を続け、ここでまたタバコを1服。高は図面をめくって言った。
 「オフィスはこれじゃ狭すぎるな」

 23分後、オフィスと廊下、それに役員用の応接室が3室できあがった。最上階の従業員寮の設計には、せいぜい15分もかからない。床面積2000平方メートルの工場を、上から下までわずか1時間4分しかかけずに設計したことになる。高は図面を建設業者に渡す。業者は、いつ見積もりがほしいかとたずねた。

 「今日中でどうだ?」
 業者が時計を見ると、もう午後3時48分だ。
 「とても無理ですよ!」
 「では明日の朝一番に頼む」
 続いて資材の話に移る――ペンキ、セメント、コンクリートブロック。王は地元麗水の建設業者に指示する。「安物のドアを使って金を浮かせたりするなよ。いい仕事をすれば、また雇ってやるからな」

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