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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
ビッグメルト
消える氷の大地

JUNE 2007

文=ティム・アペンゼラー 写真=ジェームズ・バローグ

極やグリーンランドなど、世界中の氷床や氷河が科学者の予想を上回る速度で解け始めた。暴走する「地球温暖化」の実態に迫る衝撃ルポ。

 南米ボリビア、標高5260メートルのチャカルタヤ氷河に、こじんまりとしたスキー場がある。世界で最も高い所にあるスキー場だ。設備といえば、長さ1キロ足らずのゲレンデが1カ所と、古びた簡易リフトがあるだけ。空気の薄さからくる頭痛を紛らわすため、スキーヤーはコカの葉を煎じたお茶を飲んでいた。「こんなスキー場でも私たちには誇りでした。各国の選手を招いて、南米スキー選手権を開催したこともあるんです」と、ボリビア山岳クラブのウォルター・ラグナ会長は感慨深げに語る。

 そんな自慢話も過去のものになりつつある。この高地にスキー場ができたのは、小さな氷河があったおかげだ。雨期になると氷河に雪が積もり、どうにかゲレンデらしきものになる。1939年にスキー場がオープンした時には、すでに氷河は解け始めていたが、ここ10年ほどで一気に後退し、昨年には氷の塊が3カ所残るばかりになってしまった。今や一番大きい氷塊でも直径200メートルほどしかなく、リフトの下には岩だらけの地面が広がっている。

 高山の氷河から極地の広大な氷床まで、地球上のあらゆる場所で、誰も予想しなかった勢いで氷が解けている。91年からチャカルタヤの氷河を観測してきた科学者たちも、まだ数年は安泰とみていた。地球温暖化が進めば、氷河が解けるのは十分予想されていたが、そのスピードは科学者の予想を超えていた。気温の上昇ペースからは考えられないほど急速に、氷の融解が進んでいる。

 氷河や氷床は、わずかの気候変動にも敏感に反応することがわかってきた。グラスの中の氷が一定のペースで解けるのとは違い、氷河や氷床はいったん解け始めると、どんどん融解が進む傾向がある。チャカルタヤの場合は、氷河の一部が解けて黒っぽい岩が露出したため、太陽熱をよく吸収するようになり、融解が加速した。生じた変化がさらに悪影響を及ぼす負のフィードバック効果だ。そうして山岳地帯や極地の氷床は急激に縮小しつつある。

 21世紀の終わりまでには、アルプスの氷河はほとんど消えるだろう。アンデスやヒマラヤ山中に散らばる小さな氷河の寿命はせいぜい数十年程度だ。ボリビアやペルー、インドなどでは、氷河から流れてくる水を、飲料水や農業用水、水力発電に利用して多くの人々が生活している。氷河が消えれば、その暮らしは大打撃を受けるだろう。

 グリーンランドと南極を覆う広大な氷床にしても、解けるペースが突然速まったため、いつまでもつかは専門家にもわからない。グリーンランドの氷床を調べている米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所のエリック・リグノットによると、融解のペースはこの10年ほどで2倍になったという。「5年前なら、『絶対あり得ない』と言われていたような現象が、いま現実に起きています」。グリーンランドと南極の一部にあるもろい氷床が崩壊すれば、海面が上昇して世界各地の島々や沿岸地域が水没する。低地にあるバングラデシュやオランダ、米国フロリダ州などが水浸しになり、何千万もの人々が生活の場を失うことになる。

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