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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
ビッグメルト
消える氷の大地

JUNE 2007


 グリーンランドの気候は、明らかに暖かくなった。ステフェンの観測キャンプの冬の気温は、93年に比べて約5℃上昇し、大西洋の水深数百メートルの水温も0.5℃ほど上がっている。そのため氷河の先端は、空気に触れる上面だけでなく、水中からも解けだしている。フィヨルドに浮いた氷がすべて崩れてしまえば、崩壊の加速が収まる可能性もある。また、グリーンランドの岩盤は、氷床の重みで巨大な盆地のように沈んでいて、その多くが海面下にある。氷河が後退すれば、それを追うように海水が低地に流れ込み、内陸に残った氷をあっという間に海へ滑らせてしまうかもしれない。

 今すぐにグリーンランドの氷が解けて、海面が大幅に上昇するということはない。衛星を利用して海面を観測しているスティーブン・ネレムによると、これまでのところは1年に3ミリのペースで海面が上昇しているという。このままなら2100年には海面が約30センチ上昇する計算で、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が今年発表した予測とほぼ一致する。

 一方、グリーンランドでの異変を間近で感じている研究者の多くは、2100年までに海面が1メートル上昇する可能性があると考えるようになった。氷河の流速を測定するリグノットは、この予想でもまだ甘いかもしれないと考えている。グリーンランドの氷が解ければ、海面は最終的に3メートル上昇するおそれがあるというのだ。「数百年単位でなく、あと100年でそれだけ上昇するという非常事態もあり得ます」

 観測キャンプへの出発を待っていたステフェンのチームに話を戻そう。観測チームはヘリコプターで8キロほど内陸に向かった。着陸したのは、氷のあちこちに穴が開いた一帯だ。内陸から流れてくる氷の一部は、氷床の「消耗域」と呼ばれるこの辺りで解ける。訪れたのはちょうど8月で、まさに氷がどんどん解けるシーズンだった。広大な氷原のあちこちに解けた水がたまり、一面真っ白な氷の風景の中を縫うように、真っ青な水をたたえた川が流れていた。

 こうして、解けた水が氷の上を流れると、氷床の崩壊にさらに拍車がかかるようだ。ステフェンらが初めてこの負のフィードバック効果に気づいたのは、10年前のことだ。NASAの科学者ジェイ・ズウォリーがGPS(全地球測位システム)を使って、氷河の流速を2年ほど続けて測定したところ、興味深い関係が浮かび上がった。氷の表面が解けるにしたがって、氷河の流れが速まることがわかったのである。

 ズウォリーとステフェンは、表面で解けた水が氷床の底まで浸透し、その下の岩盤との間で潤滑油のような役割をするという仮説を立てた。濡れた路面で車のタイヤがスリップするように、氷と岩盤の間に水がたまると、氷河が滑って流れが速くなると考えたのだ。

 この仮説が正しいなら、表面で解けた水は、なんらかのメカニズムで氷床の底まで浸透しているはずだ。夏には消耗域のあちこちに解けた水がたまり、直径何百メートルもの湖ができるが、そうした湖は時に、たった1日で姿を消してしまう。どこかに隠された排水路があるかのようだ。観測チームのヘリコプターが着陸した地点からそう遠くない所に、「ムーラン」と呼ばれる縦穴ができていた。解けた水が小さな隙間に流れ込んで氷をうがち、そこにさらに水が集まって深く大きな穴ができたものである。

 ステフェンたちがここに来たのは、穴に流れ込む水の行方を調べるためだった。水は真っすぐ氷床の底に達するのか、階段を下りるように流れ落ちていくのかを確かめたい。水が底にたやすく浸透すればそれだけ、氷河の流速がどんどん加速されると考えられるからだ。

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