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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
ビッグメルト
消える氷の大地

JUNE 2007


 海面が一気に上昇し始めるまで、もはや猶予はないのに、この期に及んでまだ多くの科学者が、石炭や石油、天然ガスの消費を大幅に減らせば最悪の事態を回避できると考えている。だが、地球温暖化は着々と進行し、これまで通りの経済活動をあと50年続ければ、完全に手遅れになることはほぼ間違いない。

 地表に露出している太古のサンゴは、過去にも気候が温暖化し、海面が上昇した時期があったことを物語っている。米国フロリダ半島の先端のキー諸島やバミューダ諸島、バハマ諸島の沿岸からやや内陸にみられるこうしたサンゴは、今からおよそ13万年前の温暖な時期(間氷期)に形成された。当時は、海面が今より4.5~6メートル高かった。つまり、現在グリーンランドにある氷床の大半が、解けた水の状態で海面を押し上げていたということだ。

 当時の温暖化が進んだ理由は、化石燃料から排出される温室効果ガスが増えたためではない。地球の自転軸の傾きと公転軌道が変わったことが理由で、北極圏の夏の気温は今よりも3~5℃高かった。現在の温暖化のペースからすると、北極地方の気温が当時の水準に達するのは時間の問題だろう。

 気温がそのように急上昇しても、氷床は数千年かけてゆっくり解けて小さくなるにすぎない――コンピューターによるシミュレーションがはじき出す予測は、たいていそんな内容だ。こうした予測が正しければ、海面の上昇は差し迫った脅威ではないということになる。だが、グリーンランドの氷床で実際に起きている事態を見れば、とても悠長に構えてはいられない。

滑りだすグリーンランドの氷河

 スイス生まれの気候学者コンラッド・ステフェンは過去15年にわたり、グリーンランドの内陸に観測キャンプを設けて、氷の状態を調べてきた。昨年の夏、再びグリーンランドを訪れたステフェンは、沿岸の町イルリサットに滞在し、ヘリコプターで内陸部のキャンプに飛び立とうと待機していた。「至る所で、異変を肌で感じます」と、ステフェンは話した。

 沖合に目をやると、薄明かりのなか、銀色に輝く氷山の小さな塊がいくつも浮かんでいた。海面に漂う数多くの氷山は、目に見える形で異変を知らせている。これらは近くのフィヨルド(氷河の浸食でできた湾)の奥、ヤコブスハン氷河から崩れて、沖に流れていった氷山だ。

 氷は、その一片を手に取ってみれば石のように固い。だが、固体の氷も、大量に集積すると水飴のように粘性をもち、ゆっくりと流れだす。グリーンランドでは、日本の国土面積の5倍近い広大な氷床が、内陸から沿岸に向かって流れている。陸上で踏みとどまるものもあるが、そのまま海に流れ込む“氷の河”もある。

 ヤコブスハン氷河は幅6.5キロ、厚さはほぼ1キロあるグリーンランド最大の氷河である。その流速はこの10年で2倍になり、1日に約37メートルも進むようになった。今では、毎年46立方キロの氷の塊が海に流れ出し、フィヨルドでは次々に新しい氷山が生まれている。

 グリーンランドの別の場所でも、氷河の流れは速くなっている。昨年、NASAの研究者リグノットは衛星のレーダー観測で、グリーンランド南部にある氷河のほとんどで、流速が増していることを突き止めた。リグノットの計算では、グリーンランド全土で2005年に失われた氷は224立方キロに達する。これは、10年前と比べて2倍以上の量で、科学者たちの予想を大きく上回る。「氷床の崩壊が始まったようです」と、グリーンランドと南極の観測を指揮するNASAのワリード・アブダラティは警告する。

 ヤコブスハン氷河の流れが速まるのと同時に、氷河の先頭で海に浮かんでいる先端部も崩れて後退し始めた。2000年以降、ヤコブスハン氷河の先端は6.5キロ後退した。グリーンランドのほかの氷河でも、先端が部分的に崩れたり、全壊してしまったところは多い。実は先端が崩れたために、氷河の流れが速まっている可能性がある。「先端に浮いた氷は、陸側にある氷が海に流れ出すのを食い止める役割を果たしています。その氷が解けてしまうと、ちょうど栓が抜けたように氷河が海に流れ込んでしまうのです」と、アブダラティは説明する。

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