/2007年5月号

トップ > マガジン > 2007年5月号 > 特集:米国最後の大草原


定期購読

ナショジオクイズ

1947年にこの洞窟付近で見つかった、最古の聖書写本を含む死海文書。紀元前70年前後に隠したとみられていますが発見された当時の状態は?

  • 羊の胃袋に巻かれていた
  • 川に沈められていた
  • 壷に入っていた

答えを見る

ナショジオとつながる

週2回
配信

メールマガジン無料登録

メルマガ登録の詳細はこちら



特集

米国最後の大草原
フリントヒルズ

MAY 2007

文=バーリン・クリンケンボルグ 写真=ジム・リチャードソン

国カンザス州のフリントヒルズは、丈の高い草が広がる最後の大草原。昔ながらの生態系は、未来ばかりを見つめる人間の営みに警鐘を鳴らす。

 米国人は、夢いっぱいの大地に暮らしてきた。19世紀の詩人ウォルト・ホイットマンが「希望に燃え立つ緑の布地」とたたえた、広大な草原がその大地だ。人間はいつも、今この瞬間ではなく、未来に目を向け、大地を自分たちの都合のいいようにつくり変えてきた。そんな人々の営みのもとに、自然は覆い隠されてしまいがちだった。

 だから、私たちにはカンザス州フリントヒルズの美しさや素晴らしさがわかりにくい。米国に唯一残された、「トールグラス」と呼ばれる丈の高い草が広がるこの大草原は、まさに私たちが夢の代償にしてきたものだからだ。

 今や、フリントヒルズに行くのに、かつてのように苦労することはない。ミズーリ川を渡ってでこぼこ道を揺られて来なくても、大小さまざまな道路が通っている。だが、地名にもなった火打石と石灰岩でできたなだらかな丘をのぼり、耳が引きちぎられそうなほど強い風に吹かれてみれば、見えるものは変わってくる。

 果てしない空、どこまでも続く大地、無限に広がる地平線。思い浮かぶのは「無」という言葉だ。本当に見事なまでに、何もない。

 ここでは「無」という言葉が大きな意味をもってきた。かつて北米の平原を駆け抜けた野生のバイソンの群れは、牧牛の群れにとってかわり、トールグラスのそよぐ果てしないプレーリーは、トウモロコシ畑と大豆畑に変わった。そんな変化を阻むものなど、「皆無」だったのだ。人々は昔から、飼い葉を得るためにこそ重宝しても、草原に不変の価値を見いだすことはなかった。畑が必要になれば次々に開墾し、その畑も宅地に変えていった。

 プレーリーの地形は変化が乏しく、面白みに欠ける。米国に、草原だけからなる国立公園や保護区が一つしかないのも、それが理由かもしれない。その唯一の保護区、トールグラス・プレーリー国立保護区は、フリントヒルズの中央、カンザス州チェース郡にある。

 草がそよぐ丘を歩いてみると、まるで自分が大昔にいるような気分になる。そこには現代社会を思い起こさせる音も風景も何もない。トールグラス・プレーリー本来の生態系を把握するのは容易なことではない。だが、意外な強さを秘めたその本質が見えてくるにつれ、この場所を一つに結びつけているのは、実は草原ではないかと思えてくる。

 フリントヒルズのなかでも、低地ではトウモロコシなどの穀類が育てられている。小川のほとりにはナラの木が茂り、ところどころにスズカケノキも見える。砂利道をたどれば、石灰岩でできた古い塀や、開拓者が植えたハリグワの木の生け垣や防風林などもある。

 一方、フリントヒルズの大半を占める高地に目を移すと、昔のままの平原が広がっている。土壌の層はごく薄く、岩だらけで農地には不向きだ。倒れた墓標のように、あちこちに石灰岩がむき出しになっていて、雨にうがたれた岩の裂け目を見つけては、草が根を張っている。ここがずっとありのままの姿を保ってこられたのは、初期の入植者たちが書き残しているように、この土地が頑なだったことが大きな理由だ。

 その頑なさは草にも表れている。なかでもフリントヒルズによく見られる草、ビッグブルーステム(学名Andropogon gerardii)は特に生命力が強く、種でも地下茎でも分布範囲を広げていく。堅い根と地下茎は地表近くでクモの巣のように生え広がり、細い根は土さえあれば2.5メートルもの深さまで伸びる。地上に顔を出す芽の部分は、それほど重要ではない。春の間、実際の生長点は土の中にあり、芽が食べられたり焼かれたりしても影響を受けないからだ。こうした草原の植物はたいていそうだが、ビッグブルーステムも適切な時期に放牧や野焼きを行うと、かえってすくすく育つ。

1/2 pagesNext


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー