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特集

カバの王国
ルアングワ渓谷

MAY 2007

文=クリスティン・エクストロム 写真=フランス・ランティング

ンビアのルアングワ渓谷は、アフリカでも有数の野生生物の宝庫だ。全長約800キロの大河のほとりに、カバやゾウ、ライオンなどが生息する。

 ザンビア東部を流れるルアングワ川は、ザンベジ川の支流で全長およそ800キロ。アフリカ南部に残された、自然のままに流れる手つかずの、数少ない大河だ。豊かな流れは渓谷一帯をうるおし、流域には5万平方キロ(九州の1.3倍以上)に及ぶサバンナと疎林が広がる。

 ルアングワ渓谷は野生生物の宝庫で、カバやゾウ、キリン、ライオンやヒョウ、アフリカスイギュウなどが生息する。ただし、人間はほとんど見かけない。理由の一つは、ルアングワ川の大氾濫だ。毎年11月から4月の雨期になると川が大暴れして、あたりの地形は一変する。ひざほどの深さだった流れは激しい濁流と化し、新たな流路を求めて大地を削り、草原や森を水びたしにする。半年近く続く雨の季節、この渓谷では車はほとんど使いものにならない。

 やがて水が引くと、生まれ変わった大地が現れる。だが、乾期が何カ月も続くうちに気温は上がり、大地はからからに乾ききる。10月後半には草は食べつくされ、熱風が土ぼこりを巻き上げる。たそがれ時、わずかに残った川の深みに潜んでいたカバたちは、餌を求めて暗い茂みへと消えていく。何キロも歩いた末、草にありつくものもいるが、多くはこの時期を生き延びられない。ある朝、川面に幼いカバの死体が浮かんだ。1頭の雌が現れ、そっと子カバの体に鼻面をすり寄せると、去っていった。

 厳しいのは気候だけではない。渓谷の野生生物にとって、人間たちの仕打ちはさらに厳しかった。国立公園内でも密猟が横行し、一時はゾウやカバの生息数が激減した。だが、取り締まりの強化や人々の意識の変化が功を奏し、生息数は回復に向かっている。

 11月。青黒い積乱雲が、夜通し雷鳴をとどろかせる。ある午後、一陣の強風が雨のにおいを運んできた。灰色の冷たい雨が地表を駆け抜け、草木のほこりを洗い流す。一夜明ければ大地には緑が芽ぶき、モパネ(マメ科の樹木)の林は新芽で薄紅に色づく。アラビアゴムモドキはレモン色の花を咲かせ、スパイダーリリーの花が草原を白く彩る。ゾウやスイギュウは高台の若草をめざす。インパラは子を産み、茂みから出てきたシマウマも幼い子を連れている。

 雨が降りだして数日後、「雨の案内者」と呼ばれる渡り鳥、アオハシコウの群れがやってきた。数千羽の群れは、草原を野火のように移動しながらカエルや昆虫をついばんでいる。渓谷の、新しい季節がこれから始まる。


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