/2007年5月号

トップ > マガジン > 2007年5月号 > 特集:海を渡る蝶 アサギマダラ


定期購読

日経ナショナル ジオグラフィック 翻訳講座 秋期受講生募集中 詳しくはこちら

記事ランキング

ナショジオクイズ

Q:写真はイタリアのポンペイに残るフレスコ画。右側の剣闘士は左手の人さし指を立てていますが、何を意味するものでしょうか。

  • 交代
  • 再戦
  • 降参

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

海を渡る蝶
アサギマダラ

MAY 2007



白いタオルに飛んでくる蝶

 各地のマーキング調査で大活躍している、意外な道具がある。ごく普通の、白いタオルだ。手に持って勢いよく回すと、高いところを飛んでいるアサギマダラも、翅をV字型にしてまっしぐらに降下してくる。発見者は、石川県宝達山で長年調査をしてきた松井正人さん。「森の中で蚊を追い払うために回していた」というタオルに、なぜかアサギマダラが寄ってきたのだ。

 昨年9月に、私も宝達山を訪れてみた。ちょうど地元の宝達小学校のマーキング会の日で、松井さんの指導を受けて子どもたちが大はしゃぎでタオルを回し、蝶を呼び寄せていた。ここでマークを付けた蝶が、遠く鹿児島県の喜界島で再捕獲されたことがある。それが縁で、喜界島の滝川小学校と宝達小学校との交流が始まった。こうして人と人とのつながりが生まれていくのも、アサギマダラを追う醍醐味の一つだ。近年ではメーリングリストやホームページが開設され、情報交換も活発になっている。

 さまざまな調査によって多くの知見が集積された今も、アサギマダラがなぜ季節移動をするのか、という疑問に明確な答えは出せていない。暮らしやすい温度を求めて移動しているのかもしれないし、餌となる植物の種類や、寄生バエをはじめとする天敵などの要因も、影響している可能性がある。また、小さな体でどうやって飛ぶ方向を決め、海を渡って長い旅をするのかも、謎のままである。

 長距離移動の事例は、続々と報告されている。2000年には台湾から日本へ、翌年には日本から台湾への移動例が見つかった。さらに2002年には、本州から沖縄県の南大東島へ移動した4例の報告が、長嶺邦雄さんから寄せられた。台湾との間には島々が連なっているが、南大東島へは1000キロもの海を渡るほかない。翌年の南大東島では、本州から5日、四国から3日という高速移動の例もみられた。2005~06年には、小笠原諸島の父島での再捕獲や、長野県から台東沖の島、蘭嶼まで2000キロを超す移動も確認されている。

 2006年12月、台湾で活躍する李信徳さんとその友人の案内で、台湾での調査の中心地、陽明山を見学してきた。蝶はいなかったが、越冬中の幼虫を観察できた。「アサギマダラの集団越冬地があるのでは」と期待を胸に、翌日には蘭嶼へ飛んだ。しかし、嵐のような風と波しぶきに見舞われ、残念ながら、ついにその姿を見ることはできなかった。

 さて、これからアサギマダラの北上シーズンである。南の島々では、すでにマーキングが始まっていることだろう。マーク蝶は、あなたの庭に飛来するかもしれない。

Back3/3 pages


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー