/2007年4月号

トップ > マガジン > 2007年4月号 > 特集:世界を席巻する黒人音楽


定期購読

翻訳講座

ナショジオクイズ

気候変動の研究施設があるグリーンランドは、どの国の領土?

  • ノルウェー
  • カナダ
  • デンマーク

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

世界を席巻する
黒人音楽

APRIL 2007

文=ジェームズ・マクブライド 写真=デビッド・アラン・ハーベイ

20世紀以降、世界を制したのは黒人たちが生み出した音楽だ。かつてはブルースやジャズ、そして今ヒップホップが世界の若者を魅了する。

 私の悪夢はこんなふうに始まる――娘が男を連れてきて、「パパ、私たち結婚するの」と言う。男はラッパーだ。口には金歯がずらりと並び、ドゥーラグというヒップホップファッション独特の布を頭に巻いている。筋骨隆々の腕に、いかにも悪ぶった態度。やがて二人の間に子どもができて、小さな足でわが家の居間をパタパタと駆け回り、私の人生に入りこんでくる。とはいえ、私も若い時分は、その時代の新しい音楽にどっぷりつかった「思慮分別のない若者」だった。

 だから私は、昔の自分自身を思い出させるような「そいつ」に出会った日を呪い、その名を知ったことを悔やむ。「そいつ」、つまりラップが世界を制したことに戦慄を覚えるからだ。メロディーもなければ繊細さなど微塵も感じられない。楽器も使わないし、詩もハーモニーもない。いつ曲が始まって、いつ終わるのかもわからなければ、どんな曲なのかもわからない。音楽とすら思えない音楽――それがラップだ。もう私の知っている世界ではない。ラップ独特の世界だ。でも私はそこで生きている。ヒップホップの世界に暮らしているのだ。

 初めてラップ音楽を聞いたのは1980年、米国ニューヨークのハーレムで開かれたあるパーティー会場でのことだった。すぐ近くのコロンビア大学でジャーナリズムを専攻し、卒業間近だったアフリカ系とヒスパニック系の学生たちが集まり、誰かがレコードをかけると、みな一斉に歓喜の声をあげて踊り出した。だが、ジャズ好きの私は思わずたじろいでしまった。まるで壊れたレコードのような音だったからだ。

 シックというバンドのヒット曲「グッド・タイムス」の4小節が延々と繰り返され、そのリズムに乗せてどこかのガキが、「俺は世界一のDJ(ディスクジョッキー)だ」とかいう詞を韻を踏みながらまくし立てている。シュガーヒル・ギャングというグループが「グッド・タイムス」から作った「ラッパーズ・ディライト」というラップ音楽だった。こんなばかげたものは聞いたことがないと思った。

 あれから四半世紀がたち、フランスのパリやコートジボワールのアビジャン、南アフリカのヨハネスブルクや大阪など行く先々で、道を走る車や路地裏から大音量でラップが聞こえてきても、私は決して耳を傾けなかった。生まれ育ったニューヨーク・ブルックリンの街角で、後にヒップホップの大物になる“ビギー・スモールズ”ことクリストファー・ウォレスという太った若者が、仲間とラップをしているところにも何百回と出くわしたにちがいないが、気にも留めなかった。

1/7 pagesNext


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー