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特集

シリーズ地球の悲鳴
魚が消えた海

APRIL 2007



変貌した地中海のマグロ漁

 かつてクロマグロは、無尽蔵と思えるほどたくさんいた。毎年春になると、スペインとモロッコを隔てるジブラルタル海峡を通ってたくさんのクロマグロが押しよせ、地中海全域で産卵していた。漁民たちは長い年月をかけて、沿岸に定置網をしかけて群れを追いこみ、手かぎでとどめを刺す漁法を編みだした。

 こうした定置網は、イタリアではトンナーラ、スペインではアルマドラバと呼ばれる。19世紀半ばには、年間1万5000トンほどの漁獲量を上げていた漁法だ。この方法であれば、資源を脅かすこともなく、大勢の漁民とその家族を養うことができた。しかし今日、この定置網漁を行っているところは十数カ所しかない。マグロの数が減ったためだが、沿岸の開発と汚染も原因とされている。

 大西洋や太平洋のクロマグロ、それに南太平洋やインド洋を回遊するミナミマグロは、いずれも最高級のすしネタになる。大西洋にいるクロマグロの受難が始まったのは、1990年代半ばのことだ。そのころにはすでに、ミナミマグロはかつての生息数の実に6~12%にまで激減していた。新しい供給源を探していた日本が、次に目をつけたのが、クロマグロがまだふんだんにいる地中海だったのだ。

 1996年、オーストラリアでミナミマグロの養殖技術を開発したクロアチア人たちが、アドリア海に地中海初のマグロ養殖場を開設した。その手順はきわめて簡単だ。捕まえたクロマグロを沿岸のいけすに移し、そこで数カ月以上、イワシなど脂の乗った魚を食べさせる。一時的に飼育して太らせるこうした養殖は、「蓄養」と呼ばれる。たっぷり脂肪を蓄えたマグロは、日本で高い値段がつく。

 脂肪の多い地中海産クロマグロを安定供給して、大きな利益を得たい――そんな思惑が、資源を脅かす事態を次々と招いている。地中海でのクロマグロ漁は当初の3倍にまで拡大し、漁船の数も1700隻に増えた。そのうち314隻がまき網漁船だ。さらに悪いことには、マグロ蓄養場の出現によって、欧州連合(EU)および各国政府が漁獲量を正確に把握できなくなってしまった。網で捕獲されたクロマグロは、沖合のいけすで飼育され、海上で処理された後、輸送船で急速冷凍される。そのため、なかなか実態がつかめないのだ。「ブラックボックスになっています」と、ICCATの前議長で水産庁沿岸沖合課長の宮原正典は語る。

 マグロの蓄養場が増えたことで、クロマグロは成育年齢に関係なく狙われるようになっている。たとえばクロアチアでは、もっぱら若い個体だけを2~3年飼育し、繁殖年齢に達する前に出荷している。スペインのバレアレス諸島では、4000万個もの卵を産める大きな雌がとりつくされている。そうしてクロマグロの生息数は、この10年で一気に減ってしまった。

 「かつてタラでも、同様のことが起こりました」と説明するのは、フランス海洋開発研究所(IFREMER)の海洋生物学者で、クロマグロを専門にするジャン=マルク・フロマンタンだ。「バイオマス(生物量)がとても大きいので、減少してもすぐには実感できないのです」

 業界関係者によると、地中海におけるマグロ蓄養ビジネスの60%は、フランシスコ・フエンテスが握っている。スペインのカルタヘナに本拠地を置く彼の会社、リカルド・フエンテス・アンド・サンズ社は、年間260億円の収益を上げているという(同社の広報担当者は、実際の収益はそのおよそ半分だと語った)。

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