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荒涼とした絶景
チワワ砂漠

MARCH 2007

文=ジョー・ニック・パトスキー 写真=ジャック・ダイキンガ

国テキサス州とメキシコの国境を流れるリオグランデ川をまたいで広がるチワワ砂漠。この地で行われている、新たな自然保護活動を紹介する。

 まるで『不思議の国のアリス』のように、ウサギの巣穴に落ちて別世界に来てしまったかのようだ。米国テキサス州とメキシコの国境にまたがって広がる、ここチワワ砂漠では何もかもが、ほかとは違って見える。

 ここでは小鳥ほどもある大きなガが舞い、遠くに目をやると「ミュールイヤーピークス」と呼ばれる、ラバが耳を立てたような形をした二つの黒い流紋岩の岩山が見える。でも、その岩山が10キロ先にあるのか、50キロ先にあるのかわからない。晴れた日には視界が100キロ以上にも達するうえ、物差しになる道路や建物がほとんどないので、距離感覚が失われてしまうのだ。クマがすめるとは到底思えない高地にある砂漠の峡谷をアメリカクロクマがのし歩き、ヒラウチワサボテンやリュウゼツラン科のユッカのトゲに気をつけながら餌を探している。

 リオグランデ川がその流れを大きく北へと転じるこの地は「ビッグベンド(大曲がり)」と呼ばれ、西部開拓時代から「水が下から上に向かって流れ、虹が雨を待ち望む」場所として語られてきた。実際、神話と現実の境目は定かではない。独自の生態系をもつ「天空の島」と呼ばれる二つの山地、チソス山地とシエラデルカルメンをじっと見つめていると、山々が本当に宙に浮かんでいるように見えてくる。

 もちろん、テキーラに酔っているわけではない。しかし、酒よりももっと強いものに酔っているのだ。雨が降るとクレオソートブッシュ(メキシコハマビシ)の葉からむせかえるような刺激臭が漂い、頭がくらくらしてくる。まるで強力な媚薬のようだ。じゃまになる高木や灌木がないので、はるかかなたまで見わたせる。5億年におよぶ地質活動と浸食の結果、細かい砂や砂利、ごつごつした岩、火山灰が風化してできたスポンジのようなベントナイトという粘土、火山の噴火で流れ出た溶岩が広範囲に分布している。低地から高地まで砂漠の中を130キロも歩いていると、荒涼とした月面のようなこの土地の魅力がだんだんわかってくる。

 広大なチワワ砂漠はこれまで「エル・デスポブラド」、スペイン語で「無人の土地」と呼ばれてきたが、その中でもテキサス州とメキシコにまたがるこの地域は、「エルカルメン-ビッグベンド越境大回廊」という、ものものしい名前で呼ばれるようになってきた。1万平方キロ以上の広さがあり、砂漠地域の中で生物多様性が最も豊かな地域の一つで、チワワ砂漠にある保護区の中で最も広い。

 この地域を保護しようというアイデアは、1930年代からあった。テキサス州とメキシコ双方の代表者たちが国際的な平和公園を作ろうと大がかりな計画を立てたのだ。このアイデアは実現しなかったが、今、はるかに壮大で野心的な試みとして実を結びつつある。

 地図の上では「大回廊」のほとんどは空白地帯だ。唯一目につくものといえば、国境となっているリオグランデ川のくねくねと蛇行した流れだけ。保護地域は六つに分かれていて、リオグランデ川をはさんで南北一帯に広がっている。メキシコ側には、チワワ州のサンタエレナ峡谷保護区とコアウイラ州のマデラスデルカルメン動植物保護区がある。テキサス州側にある保護地域は、ビッグベンド国立公園と、それに近接した州立の保護区が二つ、そしてリオグランデ川沿いの細長い区域だ。

 この地を空から見ると、大きな地割れや絶壁、波打った地層ばかりで、生き物が暮らしているとは到底思えない。地上から見ても同様で、人を寄せ付けない不毛の地だ。夏の暑い日には気温が38℃を超えるが、冬の夜には氷点下まで下がる。秒速15メートルを超す強い風が数日やまないこともある。ガラガラヘビやサソリに襲われたり、知らないうちに虫に血を吸われたりもする。うっかり転んだりすると、丈の低いレチュギヤというリュウゼツラン科の植物のとがった葉先やアカシア属の低木のトゲ、大きな丸いサボテン、エキノカクタスのトゲが刺さることもある。

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