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心臓医学の最前線

FEBRUARY 2007


コレステロール低下薬は有効か

 クリーブランド・クリニックの循環器専門医スティーブン・ニッセンは、「リピトール」(アトルバスタチンを主成分とする経口薬)をはじめとする、スタチン系のコレステロール低下薬を研究している。肝臓で生産されるいわゆる“悪玉”コレステロール、低比重リポタンパク(LDL)の血中濃度を下げる薬だ。コレステロール値は、あらゆる手段で下げるべきだというのがニッセンの持論である。彼自身もコレステロール低下薬を服用しているのだろうか。

 「もちろん! 自分の専門の病気で医者が死ぬわけにはいきませんよ」。ニッセンのLDL値はわずか51だ。取材した専門医8人のうち7人が、こうした薬を飲んでいた。最近では、コレステロール値が正常範囲でも、さらに下げれば病気の予防効果が期待できると示唆する研究結果も発表されているのだという。

 これがいわゆる“善玉”コレステロール、高比重リポタンパク(HDL)となると話は別だ。HDLには詰まった動脈からコレステロールを除去する働きがある。すべてのHDLがこの働きをもつわけではないが、遺伝子組み換えマウスを使った実験でHDL全体の値を上げると、動脈のプラークが小さくなることが確認された。

 コレステロールの除去作用をもつHDLの血中濃度を高める薬が開発されれば、売り上げ数十億ドル規模の大ヒット商品になるだろう。すでに数種類の薬の開発が進み、さまざまな試験段階にある。

 だが、注目されていた米国の製薬会社ファイザーの薬「トルセトラピブ」の開発は失敗に終わった。1日1錠をリピトールと併用すれば、HDL値が44~66%上がることは示されたが、増えたHDLがコレステロールの除去作用をもつとは限らず、血圧が上がる副作用もみられた。2006年12月には、この薬を併用した患者は、リピトールのみを服用した患者より死亡率が60%も高いことが臨床試験のデータから判明し、ファイザーは開発を中止した。

 今後さらに研究が進むまでは、すでに市場に出回っている数種類のスタチン系コレステロール低下薬を頼みの綱にするしかない。これらの薬はいずれも、世界中で大量に処方されている。もちろん薬である以上、スタチン系のコレステロール低下薬にも筋肉痛をはじめとする副作用はある。この薬を服用中は、定期的に血液検査を受けて、肝機能をチェックすることが勧められている。

 困ったことに、ファストフードを食べ、のんびりテレビを眺め、車で移動する生活習慣をなかなか変えられないという人は多い。それでも、希望がないわけではない。心臓病の遺伝子研究は日進月歩で進んでいる。近い将来、本人が望みさえすれば、自分の心臓の状態や遺伝子について、詳しく知ることができるようになるだろう。そうした情報をどう受け止めるかで、以後の運命が違ってくるかもしれない。65歳であの世行きか、80歳まで元気に暮らすか――どちらの道をたどるかは、今後ますます私たち自身の選択にかかってくる。

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