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特集

シリーズ 地球の悲鳴
マングローブを救え

FEBRUARY 2007

文=ケネディ・ウォーン 写真=ティム・レイマン

と陸の境界に根を張る植物、マングローブ。二酸化炭素の貯蔵庫としても期待を集めるこの“海の森”の保護や再生が、世界各地で始まっている。

 大地と海の境界で、その両方に足をつっこむようにして生きるマングローブ。この植物が根を張る海辺の土壌は、塩分が多いうえ、空気をわずかしか含まない泥で、普通の植物なら数時間で枯れてしまう。

 こうしたマングローブ林は、地球上で最も多様な生物が暮らす生態系の一つである。林冠には鳥がねぐらをつくり、根元には貝が張り付き、ヘビやワニも狩りにやって来る。魚たちが産卵に訪れ、サルやシカ、カニ、さらにはカンガルーのエサ場であり、コウモリやミツバチにとっては花蜜の供給源でもある。

 「マングローブ」と呼ばれる木々に、実は厳密な定義はない。このグループに分類される植物はおよそ70種。そのなかにはヤシやハイビスカス、モチノキ、イソマツ、ハアザミ、マメ、フトモモの仲間も含まれる。地をはうような低木から60メートルの高木まで、高さも様々だ。

 マングローブが最も多いのは、その起源とみられる東南アジアだが、分布は世界各地に広がっている。ほとんどが北緯30度~南緯30度の熱帯や亜熱帯だが、生命力の旺盛な一部の種は温帯地域にも進出している。

 分布域の違いはあるものの、すべてのマングローブは、すぐれた適応力という共通の特徴をもつ。吸った水から塩分をろ過する仕組みと、潮が満ち干きを繰り返す潮間帯(ちょうかんたい)で生きるために発達した複雑な根が、その適応力の源だ。

 呼吸根と呼ばれる根を、泥の中からシュノーケルのように出して空気を吸い込む種類もあれば、タコの足のような根を伸ばして、ぬかるんだ堆積層で幹を支えるものもある。このように複雑にからみ合う根は、川が運んでくる堆積物をせき止め、幹と枝は打ち寄せる波が陸地を浸食するのを抑える役割を果たす。

 だが、海辺の生態系を守るかけがえのないマングローブは今、世界各地で危機にさらされている。塩田や水産物の養殖場、宅地や道路、港湾施設、ホテルやゴルフ場、農地をつくるために、次々と破壊されているのだ。こうした直接の破壊に加え、原油の流出、化学物質による土壌や水質の汚染、過剰な土砂の堆積、水分中の塩分濃度の変化など、間接的にマングローブを死滅させる脅威も無数にある。

 2004年に発生したインド洋大津波の直後は、一時的だが、マングローブの保護が大きな関心を集めた。マングローブ林が天然の防波堤となって津波のエネルギーを分散させ、資産や家財の被害を抑えたからだ。人命を救う効果もあったと考えられている。

バングラデシュの美しい森

 バングラデシュでは、海岸の浸食と堆積物の流出を防ぐというマングローブの機能を大いに役立てている。ベンガル湾の沿岸には、ヒマラヤ山脈から流れてきた堆積物によって広大なデルタ地帯ができている。そこにマングローブが植林された結果、12万5000ヘクタールの土地が新たに誕生した。

 植林が始まったのは比較的最近だが、すでにマングローブ林はガンジス川やブラフマプトラ川、メグナ川の河口部分に広がった。この広大な干潟のマングローブ地帯は、現地の言葉で「美しい森」を意味する「シュンドルボン」と呼ばれ、連続して続くマングローブ林としては、今や世界最大の面積を誇る。

 シュンドルボンでも特に木々が密生する地域では、羽のような葉をもつニッパヤシや背の高いサンダリなど10種以上のマングローブが生い茂っている。サンダリの根元の泥地には、高さ約30センチでシカの角ほどの太さの呼吸根が密生し、足を踏み入れるすき間もない。

 より乾燥した地域では、雨期の数カ月前になると、半落葉性のマングローブが赤く色づく。アクシスジカが木漏れ日のなかを滑るように走り、高木ではキツツキが木を叩く。干潟をノコギリガザミが急ぎ足で移動し、小枝の上では、焦げ茶に白い斑点のチョウ、ルリマダラが羽を開いたり閉じたりしながら休んでいる。

 「キョ、キョ、キョ」というヨタカの鳴き声とともに夜が訪れ、あたりはしんと静まりかえる。夜の支配者はトラだ。この地域の森は、今では数少ないベンガルトラの繁殖地の一つである。

 昔から地元の人々の間では、ベンガルトラを意味する「バーグ」という言葉を口にするのは最大のタブーとされてきた。この名前を呼ぶと、トラを呼び寄せるというのだ。そのため人々は、代わりに「マムー(おじさん)」という言葉を使い、シュンドルボンの王者として畏怖してきた。

 それでもバングラデシュでは毎年50万人が、「マムー」の機嫌を損ねる危険を冒してシュンドルボンに足を踏み入れる。漁民や林業従事者、あるいはヤシの葉や屋根をふく材料となる草、はちみつなどを集める人々だ。彼らは1度やってくると、自然の恵みを食料にして数週間も森に滞在し、数タカ(約10円)の収入を稼ぐ。シュンドルボンでは海産物や果物のほか、薬、茶、砂糖、さらにはビールやタバコの原料も手に入る。いわば自然の食料貯蔵庫なのだ。

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