/2007年1月号

トップ > マガジン > 2007年1月号 > 特集:幻の鳥ハシジロキツツキを追う


定期購読

日経ナショナル ジオグラフィック 翻訳講座 秋期受講生募集中 詳しくはこちら

ナショジオクイズ

Q:米国の五大湖すべてを足した面積に近いのは次のうちどれでしょう。

  • 北海道
  • 日本の本州
  • 日本全土

答えを見る

ナショジオとつながる



特集

幻の鳥
ハシジロキツツキを追う

JANUARY 2007


100万ドルを投じた大調査

 私が調査に参加した2カ月後、CLOのロン・ローアボーは6カ月にわたる調査結果を発表した。アーカンソー州東部にあるビッグ・ウッズと呼ばれる、2000平方キロにおよぶ広大な森林と沼地で行われたこの調査には、生物学者が約20人と、厳しい審査の末に選ばれた100人あまりのボランティアが参加した。

 調査には100万ドルの予算が投じられ、遠隔操作で鳴き声などを録音できる装置や、自動撮影カメラ、GPS(全地球測位システム)など、さまざまなハイテク機器が使われた。しかし、ローアボーは報告の中でこれまでに行われた調査結果を説明し、有力な目撃例はいくつかあるものの、残念ながら「新たな事実は確認できなかった」と語った。

 ハシジロキツツキ探索の歴史に大きな変化が起きたのは、2005年4月28日のことだった。この日、米ワシントンD.C.でCLO室長のジョン・フィッツパトリックが、米国内務長官と農務長官、さらに二人の上院議員とともに、CLOの調査で、1羽のハシジロキツツキが小川沿いの木々の合間を飛んでいくのが確認されたと発表したのだ。

 米国南東部の森林で「伝説の鳥」ハシジロキツツキを発見したというニュースは、世界中をかけめぐった。それまでほとんどの鳥類学者やバードウォッチャーは、この鳥が1940年代に絶滅したと思っていた。

 フィッツパトリックは「自然保護における世紀の大発見」と言い、奇跡といってもいい出来事に歓喜のあまり泣き出す人もいたほどだった。数十年もの間ハシジロキツツキの存在を信じ続けてきた熱烈な「信者」たちは、この瞬間やっと報われたと思った。

 このニュースを疑うものは一人もいなかった。コーネル大学の鳥類学研究室は世界的にも最高権威と目されている鳥類学の殿堂ともいえる存在だ。しかも、米連邦政府がハシジロキツツキの存在を認め、内務省の魚類野生生物局が協力し、有力な自然保護団体も発表に名を連ねていたのだ。著名な科学誌「サイエンス」は調査チームの論文を掲載した。これだけお墨付きのある発表に対して、異論を唱えるものなどいるはずもなかった。

 ただ、一般には公表されなかったが、実際にはハシジロキツツキの存在を示す具体的な証拠はほとんどなく、調査チームも発表会の直前になってようやくその存在に確信をもったほどだった。「誰もが浮かれたような雰囲気で、とても不思議な感じでした」と、調査に参加したオランダ人の鳥類学者で、キツツキが専門のマルティヨン・ラマーティンクは語る。「世界中が興奮の渦に包まれているのに、私たちはその鳥がいるともいないとも決められないまま、野外観察のシーズンを終えたのです」

 発表会に先立つ10カ月の調査で、目撃例として公式に認められたのはわずか1件だけだったにもかかわらず、コーネル大の調査チームは、2004年から2005年初頭にかけてアーカンソーには1羽のハシジロキツツキが生存していたと断定したのだ。今後の調査の行方にも左右されるが、これはあまりに大胆な発表で、この鳥に世間の関心が集まる限り、常に論争の的になるはずだ。
エボシクマゲラを見まちがえた?

 生存の証拠とされているのは7件の目撃例と、わずか4秒間のビデオ映像だけだった。そのビデオもヒマラヤの幻の雪男を撮影したといわれている不鮮明な映像と比べても、さらに不鮮明きわまりないものでしかなかった。

 バードウォッチャーや鳥類学者たちが証拠の検証を重ねるうちに、最初は冷静だった議論も、いつしかただの罵りあいにエスカレートしていった。野鳥愛好家はハシジロキツツキの存在を信じるかどうかの踏み絵を迫られ、「存在を確信する」「どちらともいえない」「絶対にいない」という3グループに分かれて、友人や同僚まで巻き込んで激しくいがみあった。

 ハシジロキツツキの生存をめぐる論争を正しく理解し、この鳥の存在を示す証拠を吟味するには、論争の影の主役であるエボシクマゲラ(別名:エボシキツツキ)についても理解しておく必要がある。けたたましい声で鳴く、赤いとさかと白黒模様が特徴のキツツキで、比較的よく見かける。体はハシジロキツツキよりも小さいが、姿かたちはよく似ていて、この鳥をハシジロキツツキと見まちがえたケースは多い。

 実際、ハシジロキツツキの存在を公表してから、CLOには3000件もの目撃報告が寄せられたが、中にはカナダのバンクーバーや米国北東部のバーモント州といった、どう考えてもハシジロキツツキがいるはずのない地域からの情報も含まれていた。そのため生存に疑問を持つ「懐疑」派の人たちは、証拠とされるビデオ映像や目撃例も、ハシジロキツツキの実在を願う人たちがエボシクマゲラを見まちがえたものだと切り捨てている。

Back2/6 pagesNext


ナショナル ジオグラフィック バックナンバー