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取材ノート
欧州の辺境に息づくケルトの心

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筆者の取材ノート
トム・オニール

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写真家の取材ノート
ジム・リチャードソン

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「取材現場から」は、筆者と写真家へのインタビューを編集したものです。
本誌の記事と一部が違うことがあります。

写真提供=Brian Strauss(上)and Rebecca Hale

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取材現場から 取材現場から PHOTO
欧州の辺境に息づくケルトの心

筆者の取材ノート
トム・オニール
Best 最高の経験

 アイルランド・ウィックロー山地の沼地帯を車でつっきってグレンダロッホの緑色の谷に向かう際、ダブリンの南を走る、サリー・ギャップ・ロードを通らずにはいられなかった。この道路沿いの古い修道院にある墓地に、たどれるかぎり一番古い私の祖先が眠っているのだ。ところどころに地衣類が生え、傾いた標識を過ぎ、伸びた草の間を歩いてこの場所を訪れた回数は、両手に余る。11世紀のセント・ケビンズ教会跡の向かいにある、祖先の墓石を目にするたびに、私の心は高揚する。そこには、1858年に80歳で亡くなったパトリック・オニールと、この墓石を立てた彼の娘ケイト・オニールの名前が刻まれている。
 家系図によれば、パトリックは私の曽祖父の兄弟にあたる。墓石に刻まれた彼の名前を見ていると、墓地の管理人が墓石を褒めてくれた。私はうれしくなって赤面した。パトリックの墓石は川辺にある石のように輝き、周囲にあるどの古ぼけた墓石よりもきれいで、ぴかぴかしていた。5年ほど前に訪れた時、墓石が地衣類におおわれてパトリックの名前がほとんど読めなくなってしまっていたので、地元の薬局に行って掃除の仕方を聞いてみた。すると、「トマトソースを上からかけて、2時間ほどしたら拭き取りなさい」という答えが返ってきた。言われたとおり、トマトケチャップをひと瓶墓石にかけてみた。驚いたことに、効き目は抜群だった。赤いソースを拭き取ると、名前と日付が刻まれた、ぴかぴかの大理石が姿を現したのだ。
 私はいま一度、パトリックとケイトの名前をつぶやき、墓石に負けぬほど心を輝かせた。


Worst 最悪の体験

 新たな土地に渡ってゆく感覚、海の上をわたる風の肌触り、乗り合わせた船客たち――私はフェリーの旅が好きだ。しかし、今回の取材で体験した船旅のうちのいくつかは、楽しいというよりは、思い出すだけでしかめっ面になってしまうような体験だった。
 たとえば、アイルランドのゴールウェイ湾とアラン諸島最大の街イニッシュモアを結ぶフェリーに乗った時は、ものすごい横殴りの雨で、海は大荒れだった。よろめきながら船を下りた時にはびしょぬれで、寒さで身が凍えていた。
 スコットランドのスカイ島から、アウター・ヘブリティーズ諸島のハリス島までの短いフェリーの旅も経験した。私たち乗客がまだ下船し終わっていないのに、待ち構えていた乗客が、頭の周りで手をぱたぱたさせながら、すごい勢いで船に乗り込んできた。これが前触れだった。陸に一歩上がった途端、蚊の大群が、船を下りた私たち乗客一人ひとりの周りにまとわりつき、血を吸いにきた。全員が、腕を叩きながら逃げ場を探した。せっかくの新たな地への第一歩が、台無しだった。
 スコットランドのストランラーから北アイルランドのベルファストまで、ノース海峡を渡る双胴船の旅は豪勢だった。船上には、レストランや子供の遊び場、映画館まであった。しかし、真夜中近くにベルファストに着き、車ごと船から下りたとたん、そんな近代的なものはすべて消え去ってしまった。ベルファストの町全体が真っ暗で、シャッターが閉まっているようだった。真っ暗なので、標識が読めないどころか、どこに標識があるのか探すことさえできない。そのまま、1時間ほどぐるぐるとさまよい続けた。完全に迷ってしまったのだ。「真夜中のフェリーには乗るもんじゃない」と、自分自身に説教した。ようやく、客待ちをしているタクシーを1台見つけ、小銭を渡してホテルまで先導してもらった。こんな経験はもうこりごりだ。数日間は陸上にいられることを感謝しながら眠りについた。


Quirkiest 最も奇妙な思い出

 ナショナル ジオグラフィックのライターたちは、「引用句の国」があればいいのに、とよく冗談を飛ばす。そこへ行けば、記事のテーマにうってつけの人物や情景、言葉が見つけられる国だ。そんな国があれば、私がアイルランドのある村で体験した興奮をうまく表現できるはずだ。
 開発によってアイルランドの村の多くが個性を失ってしまった。しかし、鮮やかな色が施されたパブや、窓際に花を飾った店、活気のある宿などが並ぶその村は、アイルランドらしさをそのまま残していた。この村の人々は、とにかく話好きだった。行方不明になった地元の医者を探す女性警官の話や、密造酒の作り方を披露する偏屈おやじの話、偶然再会し、こっそり不倫するかつての恋人同士の話などなど。生活に密着したおもしろいネタをたくさん取材できるぞ、と期待した。
 そこでふと、話がうますぎるぞ、と思った。この村は、アイルランドにあるゲール語のテレビ局が連続ドラマの撮影用に作ったセットだったのだ。このセットの近くのゴールウェイ湾にスピダールという本物の村があった。ここもすてきな村ではあったが、大きなマンション群が立ち並び、街の人々は天気やセックスを話題にしても、嘘や酒の話はしていなかった。やれやれ。









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