電流を生み出す極小の穴、ナノポアを10億個つなげてつくった小さなバッテリー。軽く高性能なバッテリーの開発が進められている。

Photograph by Alexander Kozen / ANSLab University of Maryland
 小さい方が大きい。これは車や建物、電子機器に使用するバッテリーの容量を増やすための格言だ。 太さが人の毛髪の8万分の1というナノサイズのバッテリーの開発が進められている。実用化に成功すれば、現状では走行距離の制約がある電気自動車や、無風のときあるいは日照がないときのための貯蔵場所を必要とする再生可能エネルギーの利用が促進されるだろう。

 最新の発明が究極の小型化とも言える“ナノポア”だ。セラミック板に開けられた塩粒くらいの穴に、バッテリーが電流を生むのに必要なすべての部品が詰め込まれている。10億個のナノポアをハチの巣状に接続しても、切手ほどのスペースに納まる。

 もちろん、バッテリーの機能もしっかり果たす。メリーランド大学の研究チームによれば、12分で充電が完了し、何千回も再充電できるという。この研究成果は論文審査のある「Nature Nanotechnology」誌に掲載されている。

 化学の博士号の取得を控えるエレノア・ジレット(Eleanor Gillette)氏は、「この性能にはとても驚いた」と振り返る。ジレット氏によれば、充電が短時間で完了するのは、電流を運ぶ距離が短いためだという。ナノサイズのバッテリーが実用化にこぎ着けば、狭い空間に多くのバッテリーを並べることができると、ジレット氏は期待している。

 アルゴンヌ国立研究所エネルギー貯蔵共同研究センター(Joint Center for Energy Storage Research)の所長ジョージ・クラブツリー(George Crabtree)氏は、「大きな前進だと思う」と評価する。クラブツリー氏によれば、ナノポアにはさまざまな利点がある。何よりナノポアは同質なため、最適な大きささえ決まれば安定した結果が保証されており、送電網に利用できる可能性が高いという。

 このバッテリーは10年前でさえ実現不可能だったと、クラブツリー氏は話す。ナノテクノロジーの分野は15年前から発展を続けているが、当初はエネルギーの貯蔵に応用されていなかったためだ。今回の研究成果はバッテリーの世界で求められている変革につながるかもしれないと、クラブツリー氏も期待している。

◆拡大する開発競争

 実用化の見返りは果てしなく大きい。気候変動の解決策になると考えられている電気自動車や再生可能エネルギーの利用を拡大するには安価で高性能なバッテリーが不可欠なためだ。風や太陽といった間欠的なエネルギー源で電力の大部分をまかなうには、バックアップのエネルギー貯蔵が必要になる。

 そのため、大学や新興企業、大企業がこぞって、リチウムイオン電池の性能を向上させた漸進的な変化を上回るバッテリーを開発しようと取り組んでいる。業界標準となっているリチウムイオン電池は1970年代に開発され、20年後に市場に投入された。

 開発あるいは改良が進められているバッテリーは数種類あり、いずれも化学反応によって電気を生み出す。ほとんどのバッテリーは3つの基本的な部品から成る。電子を供給する電解質と電子を放出するアノード、電子を受け取るカソードだ。

 研究者たちは素材や構造をナノ化することで、分子レベルでの最適な組み合わせを突き止めようとしている。

 例えば、南カリフォルニア大学の研究チームは2013年、従来のグラファイトのアノードの代わりに多孔質シリコンのナノ粒子を使用する新しいリチウムイオン電池を開発した。容量はグラファイトを使用した同等の電池の3倍に達し、10分で充電が完了するという。

 メリーランド大学ナノセンター(NanoCenter)を率いる工学教授のゲイリー・ラブロフ(Gary Rubloff)氏は、「高性能のバッテリーをつくるにはナノ化が不可欠だ」と断言する。「ナノスケールのバッテリーが実現すれば、バッテリーの製造法の選択肢も広がる」。

Photograph by Alexander Kozen / ANSLab University of Maryland

文=Wendy Koch