同動物園で変温動物の飼育を担当するビル・マクマーン(Bill McMahan)氏によると、「Biological Journal of the Linnean Society」誌に7月に報告されたDNA鑑定により、セルマが唯一の親であることが明らかになったという。
「当初は何が起きているのかわからず、精子が蓄えられていたことによるものと考えていた。まさに“事実は小説よりも奇なり”だ」と同氏は話す。
マサチューセッツ州ケンブリッジ市にあるハーバード大学で爬虫両生類学の教授を務めるジェームズ・ハンケン(James Hanken)氏によると、単為生殖は他のニシキヘビを含む複数のヘビやヘビ以外の爬虫類でも確認されているという。
単為生殖とは、繁殖の際に通常であればメスとオスの両方を要する生物において、メスが単独で子どもを作ることをいう。
卵子ができる過程で形成され、通常であれば消滅するはずの極体が精子のように振る舞い、卵子と結合することで起きる。
◆最適な条件
ニシキヘビやボア、鳥、サメなど、単為生殖が確認された生物種は近年急増していると話すのは、オクラホマ州タルサ大学の生物学者で今回の研究を率いたウォーレン・ブース(Warren Booth)氏。
アミメニシキヘビの単為生殖が観察されたのも、今回が初めてだった。
ブース氏は、「ニシキヘビは太古の昔から存在する種だ。これまではガーターヘビなど、より進化を遂げた種でしか確認されていなかった」と述べ、今回の発見がヘビの進化系統樹に関する知識を深める手掛かりになる可能性を指摘する。
単為生殖が起こる原因は不明だが、ブース氏はオスからの地理的隔離や飼育下にあることが関与しているとみている。
ルイスヴィル動物園のマクマーン氏によると、セルマの場合は好ましい生活環境が単為生殖の引き金になった可能性があるという。
「ニシキヘビが繁殖するためにはかなりの配慮を要するが、セルマが必要とするものはすべて与えていた。エサは鶏肉18キログラム。標準よりも広い場所で飼育し、加温パッドまで使っていた。最適な条件が整っていたのだろう」とマクマーン氏。
◆進化的新奇性はない
父親がいないにもかかわらず、セルマの子どもたちは“半クローン”状態にある。
6匹のうち3匹はセルマに似ており、母親の複雑な網目模様を受け継いでいる。残りの3匹は黄色に黒のストライプと、トラのような模様だ。
ガラス張りのヘビ舎で飼育されている子どもたちは健康だが、「重度の近親交配で生まれた子は早死にすることが多い」ため、野生状態で生き延びることは困難だろうとブース氏は言う。
今回の発見により、単為生殖に関する謎の多さがより鮮明になるかたちとなった。
ブース氏は次のように話した。「これまでは進化的新奇性と見なされていた単為生殖だが、我々が考えていたよりはるかに一般的なようだ」。
Photograph by Kyle Shepherd / Louisville Zoo