今回研究対象となったのが、砂漠に生息するヨコバイガラガラヘビ(Crotalus cerastes)、英名サイドワインダー(sidewinder)だ。米国南西部やメキシコ北西部の砂地に巧みに適応している。このヘビは体をくねらせながら、頭が向いている前方には進まず、「横ばい(sidewinding)」と呼ばれるS字型の動きで横に移動する。
ジョージア州アトランタにあるジョージア工科大学の生物物理学者で、今回の論文の首席著者ダニエル・ゴールドマン(Daniel Goldman)氏は、「サイドワインダーは、美しいダンスのような動きで砂の上を滑らかに移動していく。目を奪われる素晴らしい能力だ」と話す。「その上、彼らは全く滑らない」。
この横ばい運動こそが砂丘を巧みに上る秘訣なのか確かめようと、研究者らは実験を開始した。
研究チームは生きたヘビを高速度ビデオで撮影したほか、さまざまに設定を変えたヘビ型ロボットの動きを調べた。その結果、横ばい運動は上下と前後の波状の動きが組み合わさっていることが分かった。これによりヘビの体と砂との接地面積が増え、滑るのを防いでいたのだ。
◆砂山を登れるヘビ
ゴールドマン氏の博士課程での研究は、砂など粒状の表面と、そのような表面が人の足やはい回るヘビの体などから圧力を受けた際、どう変化するかに注目したものだった。
砂が地面の上に山になっているだけのときは、ほぼ固体に近い。しかしその上を踏んだり押したりすると、砂は液体のようにさらさらと流れ出し、崩れてしまう(砂浜を散歩したり、砂丘を登ってみたりした経験のある人は、この現象をよく知っているはずだ)。
ヘビの体に対して砂がどう動くか観察するため、ゴールドマン氏らの研究チームは、ジョージア州のアトランタ動物園で実験用の砂地を製作。登らせる砂山の勾配を段階的に上げていくにつれ、ヘビは体の動きを絶えず変化させ、体と砂との接触面積を増やすことが分かった。こうすると砂への圧力が小さくなるため、滑ることはない。
しかし、こうした芸当はどのヘビでもできるわけではない。砂漠環境にすんでいない近縁のクサリヘビ13種で同じ実験をしたが、滑らずに砂山を登れるのはヨコバイガラガラヘビだけだということが判明した。
◆ヘビ型ロボットの可能性
波状の動きの組み合わせと山の状態を様々に変化させると、坂を上る能力にどう影響するかを調べるため、ゴールドマン氏はカーネギーメロン大学のハワード・チョーゼット(Howard Choset)氏にも協力を依頼。チョーゼット氏が既に開発していた、ヘビに似せたロボットで実験を行った。
当初、ヘビ型ロボットは砂山を登れなかった。それが、ヨコバイガラガラヘビから得られた情報をプログラミングすることで、研究チームはほとんどどんな山でも越えられる新たなヘビ型ロボットを作り出すことができた。
バージニア州ブラックスバーグにあるバージニア工科大学の生体力学研究者で、今回の研究には関わっていないジェイク・ソーシャ(Jake Socha)氏は、「ヘビ型ロボットの開発に役立つ、とても大きな成果と言えそうだ。これによりパイプや下水道の中を非常に効率よく探索できるようになる」と評価している。
今回の研究成果は、「Science」誌に10月9日付で掲載された。
Photograph by Rob Felt