白熱電球で有名なトーマス・エジソンは、ノーベル賞を受賞することはなかった。 (Photograph by AFP/Getty)

 ノーベルウィークと呼ばれるこの週には、偉大な功績を修めた人々を称えて様々な分野で賞が授与される。そこでナショナル ジオグラフィック編集部では、偉大な発見にもかかわらずノーベル賞を受賞しなかったものには、何があるだろうかと考えた。そして、科学ブロガーや科学編集者など、編集部厳選の執筆者に、それぞれがノーベル賞を受けるべきだと考える歴史的進歩や発見を挙げてもらった。

インターネット

 1960年、米連邦政府の研究者たちは、後にインターネットへと進化することとなるコンピューター・コミュニケーション・ネットワークを生み出した。しかし私は、1989年にワールド・ワイド・ウェブを考案し、1990年に世界初のウェブサイト(ウェブとは何かを説明したページ)を立ち上げた英国のコンピューター科学者ティム・バーナーズ・リー氏にノーベル賞を授与したいと思う。

 ネコが踊る面白ビデオから、アラブの春がまさに進行中の現場から発せられた勇気あるツイートまで、インターネットは情報世界に民主化をもたらした。そして、情報は力である。

(Text by Virginia Hughes, Phenomena blog: Only Human)

世界初のゲノム解読

 2001年、ヒトゲノムの塩基配列解読が終了した。多くの人々は、科学史上最大の功績ともいうべきこのヒトゲノム計画が、なぜいまだにノーベル賞を受けていないのか不思議に思っている。

 しかしそのヒトゲノム計画が終了する6年前、クレイグ・ヴェンター氏とその研究チームは、自動化DNA塩基配列決定法 と全ゲノムショットガン法と呼ばれる技術を組み合わせて、自由生活性有機体であるインフルエンザ菌の全ゲノム配列を解読した。この方法は後に、ヴェンター氏が創立した民間企業で、ショウジョウバエやヒトのゲノム解析に使用した方法と基本的には同じである。さらにその後、他の研究室でも、数百と言う種のDNAを解析する方法として採用されている。

(Text by Jamie Shreeve, National Geographic executive editor for science)

ブラックホールの死

 スティーブン・ホーキング氏は1970年のある夜、それまでほぼ永久に死ぬことはないと考えられていたブラックホールが、実は少しずつ質量を失い、最終的にはガンマ線バーストによって蒸発してしまうのではないかとひらめいた。

 問題は、この仮説を証明する手段がないということだった。ブラックホールの寿命はあまりに長すぎて、今日その最期を観測することは不可能だ。

 それでもホーキング氏のブラックホール研究は、今では理論物理学の中に深く組み込まれており、相対論と量子力学を統合させ、情報理論の分野を発展させた。

(Text by Timothy Ferris, National Geographic contributor and author of The Science of Liberty)

周期表

 1869年にドミトリ・メンデレーエフ氏が発表した周期表は、単なる元素記号を並べただけのものではない。あらゆる物質の中心にある陽子、中性子、電子の潜在的配列を示し、整然と並んだ縦横のマスは、当時まだ発見されていなかった元素と、その特徴までも予測していた。

 これほどの偉大な発見が化学の最高の栄誉であるノーベル賞を受賞しなかったのは信じがたい話だが、周期表は化学の分野において最も価値あるポスターとなり、何世代にもわたって今も世界中の研究室の壁に貼られている。

(Text by Erika Engelhaupt, National Geographic online science editor)

白熱電球

 まず英国でジョセフ・スワン氏が特許を取得し、トーマス・エジソン氏が実用化した白熱電球は、現代経済(と睡眠不足)を築き上げ、今日私たちの生活を根底から支える電気への莫大な需要を生み出した。

 エジソン氏は、ノーベル賞を受けることなく1931年にこの世を去った。彼の遺した電球は、まさに科学的ひらめきを象徴するシンボルではないか。歴史的不正義とはこのことである。

(Text by Dan Vergano, National Geographic science writer)

クォーク

 マレー・ゲルマン氏は1969年に、「素粒子の分類と相互作用に関する発見と貢献」でノーベル物理学賞を受賞した。

 しかしゲルマン氏の名を最も世に知らしめたクォークの研究に対しては、いまだ賞が与えられていない。クォークとは、物質の基本的な構成要素で、互いに結合して陽子、中性子、その他の粒子を構成する。クォークの発見により、物質世界への理解がより深められることとなった。

(Text by George Johnson, National Geographic contributor and author ofStrange Beauty)

現代進化論

 1901年に最初のノーベル賞が授与された時、進化生物学はまだ若い分野だった。 生命がいかに世代を追うごとに変化してきたかについての肝心な詳細を、当時の生物学者たちはほとんど知らなかった。

 1920~1950年代にかけて、遺伝学者、博物学者、古生物学者など一部の科学者たちの間で、突然変異がどのように起こり、拡大し、進化の元となって行くのかが知られるようになり、この生命への新たな見解が、総合説または現代進化論として知られるようになった。彼らの業績によって今日、生命の歴史に関する私たちの知識は目覚しい進歩を遂げている。

(Text by Carl Zimmer, Phenomena blog: The Loom)

暗黒物質

 1970年、ベラ・ルービン氏とケント・フォード氏は、銀河の周縁部にある星たちが銀河の中心に近い星と同じ速さで動いていることに気付いた。そして、銀河系はあまりに猛烈な速さで旋回しており、何か目に見えない物質が重力に働いて星々を繋ぎとめているのでない限り、銀河系はバラバラに飛び散っているはずであると考えた。

 その何か目に見えないものが、暗黒物質と呼ばれるものだ。宇宙の質量の約90%を占めている謎の物質である。光を発したり反射することなく、普通の物質とどんな形でも作用し合うことはない。

(Text by Nadia Drake, Phenomena blog: No Place Like Home)

系統樹

 科学者たちが微生物をその形態で分類していた頃、カール・ウーズ氏は微生物の遺伝子を比較してその相互関係を予測するという方法を開拓した。

 彼のやり方は、それまで認識されていなかった生物のドメイン(領域)である微小な古細菌の存在を明らかにした。科学者たちはこれを基に、人間の体内に住んで健康へ影響を与える様々な微生物をカタログ化し、大小様々な生命体の進化的関係を図に書き表した。

(Text by Ed Yong, Phenomena blog: Not Exactly Rocket Science)

恐竜ルネサンス

 1969年、米エール大学の古生物学者ジョン・オストロム氏は、史上最も重要な種の発見の一つと言われる1億1000万年前の恐竜にデイノニクス(怖ろしい鉤ツメ)という名を与えた。

 人間ほどの大きさの捕食恐竜で、それまで一般に考えられていたような、動きが緩慢で頭の悪い、沼に住む恐竜のイメージとは大きく異なる。オストロム氏によれば、デイノニクスは敏捷で恐らく社会性があり、狩りをする非常に活動的な生物だったであろうという。この説が「恐竜ルネサンス」を呼び起こし、今に至るまで科学的成果を生み続けている。

(Text by Brian Switek, Phenomena blog: Laelaps)

文=National Geographic staff