遺伝子が解くオオカバマダラの大移動

2014.09.29
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レリヒオサモミの木に群がるオオカバマダラ。越冬地のメキシコ、ミチョアカン州のオオカバマダラ生物圏保 護区で撮影。

Photograph by Patricio Robles Gil / Minden Pictures
 毎年メキシコとカナダのマニトバ州の間を何百万匹という大集団で移動するオオカバマダラ。新たな遺伝子研究によって、筋肉をより効率的に働かせる特定の遺伝子がオオカバマダラの長距離飛行を可能にし、その飛行範囲は、最後の氷河期が終わるころから徐々に北へ広がっていったことが明らかになった。 また遺伝子の解析から、チョウはもともと移住性の動物として世界中に広がり、その後数種が定住し、独立し た種に進化したことも示された。

 さらには、単一の遺伝子がオオカバマダラ特有のオレンジと黒の模様に大きな役割を果たし、その遺伝子のス イッチを入れ替えると、オアフ島に生息する希少な白いオオカバマダラになるという。

 この象徴的なチョウの生息数は、幼虫のエサとなるトウワタの減少によって2013年には3300万匹まで激減し、 現在絶滅が心配されている。

◆筋肉

 3月、数百万匹のオオカバマダラがメキシコから北上し、途中世代交代を4回繰り返すと、10月には再び南下を 始める。大移動の開始と終了を決断しなければならないわけだが、研究チームは、行動に関連した遺伝子がオオ カバマダラとそのほかのチョウを区別すると考えていた。

 研究の筆頭著者であるシカゴ大学のマーカス・クロンフォースト(Marcus Kronforst)氏と研究者らは、89匹 のオオカバマダラ(学名:Danaus plexippus)と類縁にあたる4科の定住性のチョウから9種を選び、それらのゲ ノムを比較した。

「驚いたことに、解析から1つの遺伝子が浮かび上がった。しかし、行動とは無関係のものだった」とクロンフォ ースト氏は語る。その遺伝子は、結合組織を構成する伸縮性のあるタンパク質、コラーゲンの形成を助けるもの だった。コラーゲン遺伝子は、長距離を飛行するオオカバマダラの筋肉において、エネルギーの消費を抑える役 割を果たしている。

 さらに研究チームは、試験室でチョウの飛行能力を測定した。呼吸を計測するセンサーから、オオカバマダラ はそのほかのチョウと比べて力強くはないが、最も効率良く飛んでいることがわかった。

 移動性のチョウは持久力のあるアスリートで、定住性のチョウは短距離走者であるとクロンフォースト氏は述 べる。短距離走者のチョウはエサをめぐってほかの昆虫と競い合うこともあるが、移動性のチョウは場所を移動 するため競争することが少ない。

 つまり、筋肉の効率化が彼らの生存にとって極めて重要になる。

◆渡り

 いつどのようにして渡りを始めるのか。研究によれば、オオカバマダラは100万年以上前、アフリカに生息した 種から分岐し、移動性は本来の習性であるという。

 おそらく彼らの祖先が大西洋を渡った後、メキシコから広がっていったとイギリス、エクセター大学の生態学 者リチャード・フレンチ・コンスタント(Richard Ffrench-Constant)氏は述べる。

 研究著者らは、北米で氷河期が終わりを迎えた後、過去2万年の間に徐々に北へ北へと移動し、4800キロもの長 距離を渡るようになったと推測している。

◆色の手がかり

 今回の研究で、オオカバマダラの色がある単一の遺伝子に関係していることが判明した。ハワイのオアフ島で 発見された雪のように白いチョウを含め、白色のオオカバマダラは数種確認されている。白色は、色に変化をも たらす遺伝子に由来しているという。

 同じ遺伝子は、黒ネズミのくすんだ茶色の毛皮を生み出す。この発見は、哺乳類と無脊椎動物の色を初めて結 び付けるものだとフレンチ・コンスタント氏は話している。

Photograph by Patricio Robles Gil / Minden Pictures

文=Dan Vergano

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