目標「気温上昇2度以下」は無意味?

2014.09.29
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冬の石炭火力発電所。煙突から二酸化炭素が吐き出されている。

Photograph by Skip Brown / National Geographic Creative
 ここ10年あまり、世界の気候政策は一見シンプルな目標を中心に議論されてきた。それは、地球の平均地表温度の上昇を摂氏2度以下に抑えるというものだ。しかしこのほど、この目標は急速に現実味を失いつつあり、さらには誤解を招くものだとの見解が示された。「この目標は絵空事で的外れなものになる一方だ」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の国際関係 学教授デイビッド・ビクター(David Victor)氏は述べる。ビクター氏らはこのほど、摂氏2度の目標についての 解説記事を「Nature」誌に寄せた。「この目標を維持する限り、われわれはそれが実現可能なふりをし続けなけ ればならず、また人類が気候にもたらしているダメージとは関連の薄い数字に世間の注意を引きつけることにな る」。

 摂氏2度という目標値が最初に注目を集めたのは1990年代初めのこと。当時、複数の国際的な科学委員会が、人 類や他の生物が過去1万2000年にわたって適応してきた比較的安定した気候条件を維持し、気候変動による干ばつ や熱波、海面上昇がもたらす深刻な被害を一部阻止する方法として、摂氏2度という上限値を提案した。

 その後、2009年にデンマークのコペンハーゲンで開催された「国連気候変動枠組条約第15回締約国会議 (COP15)」においてまとめられた「コペンハーゲン合意」でも、気候システムへの“危険な”人為的影響を避け る水準として、地球の平均気温の上昇を2度以下に抑えることが盛り込まれた。

「採用された摂氏2度という数値には、科学的な根拠がほとんどなかった」と、Nature誌に寄せた記事の中でビク ター氏は述べている。「それでも、その数字は1つのわかりやすい焦点を示し、それまでの議論でもなじみがあっ た。(中略)当時、摂氏2度というのは大胆でありながら、おそらくは実現可能な目標に思えた」。

 多くの国や活動団体にとって、この目標は「ほとんど信仰に近いもの」になったと、イギリスのティンダル気 候変動研究センターに所属するアンドリュー・ジョーダン(Andrew Jordan)氏は近年発表した論文の中で述べて いる。「この目標に疑問を投げかけることは、(中略)気候変動の問題に団結して取り組む理由そのものに異議 を唱えるのに等しい」。

◆不可能で誤解を招く目標

 しかし、ビクター氏のような批判派は、この目標が事実上達成不可能になった今、この数値が呼び起そうとし ている取り組み自体の妥当性が揺らいでいると主張する。予測モデルの中には、摂氏2度以下の目標は依然として 達成可能だとするものもあるが、それらのモデルは、例えばすぐさま世界が足並みをそろえて努力する、または 新たな技術が急速に広く採用されるといった“大胆な想定”に基づいている。

「また、この実現不可能な目標を追い続けるふりをすることで、各国政府は気候変動への大規模な適応策に乗り 出す必要から目をそらすことができる」とビクター氏らは解説記事の中で述べている。

 さらにビクター氏は、地球の平均地表温度は、気候変動の指標として十分ではないと指摘する。平均地表温度 は過去16年間さほど上昇していないのに対し、気候システムの余分な熱の大半を吸収する深海部分の平均水温は 上昇し続けているのだ。

「気候システムの複雑さを考えると、たった1つの目標値に集約してしまうのは間違いだ」とビクター氏は述べ る。

◆摂氏2度に代わる目標

 ビクター氏は、代わりに政策立案者が注目すべきは、炭素排出とより密接に関連している複数の“バイタルサ イン”だと提案する。例えば、大気中の二酸化炭素濃度や、海洋蓄熱量、および高緯度気温変動などの数値は、 炭素排出とより強く相関しているため、これらの指標のほうが国や地域レベルでの排出量削減目標および活動に つなげやすいとビクター氏は主張する。

 アメリカの環境保護団体、環境防衛基金(EDF:Environmental Defense Fund)の元主任科学者で、現在プリン ストン大学の教授を務めるマイケル・オッペンハイマー(Michael Oppenheimer)氏も、摂氏2度という目標が完 璧ではないことを認める。「2度という目標ではおそらく、危険な影響を避けられる地域がある一方、影響を避け られない地域も出てくる。世界には、既に危険水準を超えてしまっている地域も存在する」。

 しかし、この目標を破棄するのでなく、改良することは可能だとオッペンハイマー氏は主張する。例えば20年 前に比べて、気候変動リスクを地域ごとに予測する能力の精度は大幅に向上しており、それらの予測結果は国際 的な科学評価に組み込まれ、国連の気候変動交渉の参考データに用いられている。たしかに海洋蓄熱量などの指 標のほうが、気候変動を引き起こす炭素排出により迅速かつ敏感に反応すると考えられるが、気候変動のさまざ まな影響と関連性が高いのは地表温度であり、また結局のところ、あらゆるレベルの気候政策が目指しているの はこれらの影響を緩和することなのだ。

 ビクター氏もオッペンハイマー氏も、摂氏2度という目標が容易に達成可能でなくなりつつあるという点では見 解を同じくしている。「目標を達成できない可能性は高い」とオッペンハイマー氏は述べる。「それでもなおこ の数値は、われわれが留まるべき、また立ち戻るべきレベルについての科学的見解を示している。この目標を逃 したからといって、地球が爆発したり、気候政策が終わりになるわけではない。ただわれわれが達成し損ねた事 実を明確に示すというだけだ」。

 ビクター氏らによる解説記事は、10月1日付で「Nature」誌に発表された。

Photograph by Skip Brown / National Geographic Creative

文=Michelle Nijhuis

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