MAVENに続け、各国の火星探査計画

2014.09.22
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火星上空を飛行するNASAの探査機MAVENの想像図。

Images by NASA / Goddard
 火星は混雑した場所になろうとしている。NASAの新たな衛星探査機が米国時間9月21日に火星の軌道に入り、そのすぐ後にはインド初の惑星探査機、さらには彗星が到着する。以降も、さまざまな国が火星を目指す新たな宇宙開発競争の参加者として名乗りを上げている。 NASAのMAVEN(Mars Atmosphere and Volatile EvolutioN)ミッションは、10カ月に及ぶ旅を経て、米国時間21日夜に火星の軌道に入る予定だ。この6億7100万ドルを投じたミッションのほか、NASAは既に火星表面に探査車2機と、周回軌道上に探査機を同じく2機送り込んでおり、さらに欧州宇宙機関(ESA)の火星探査衛星マーズ・エクスプレスも稼働中だ。

 そしてこの後も、多くの国が火星へのミッションを計画または検討している。さらに宇宙起業家として知られるスペースX社のイーロン・マスク(Elon Musk)氏は、火星に移民を送る構想を抱いている。

「要するに、宇宙開発を行っている主要な国のすべてが、火星のロボット探査を実施または予定しているか、検討中ということだ」と、Webサイト「SpacePolicyOnline」の宇宙政策アナリスト、マーシア・スミス(Marcia Smith)氏は述べる。

 なぜ火星なのか。「基本的に、すべての探査は火星に生命が存在するか否かを焦点にしているようだ」と、ワシントンD.C.にあるスミソニアン協会の国立航空宇宙博物館で宇宙史を研究するロジャー・ローニアス(Roger Launius)氏は述べる。過去数十年の間に、探査の目的は火星人を見つけることから、単に火星が遠い過去に生命居住可能な惑星だった証拠を見つけることへと変化しているものの、火星に生命が存在するという「考えをわれわれは完全に捨てたわけではない」とローニアス氏は述べる。

◆火星への襲来

 MAVENの目的は、40億年以上前に高温多湿の惑星だった火星が、現在の低温で乾燥した砂漠へと変化した過程を明らかにすることだ。現在の火星には地球のわずか0.6%という薄い大気しかない。水素などの軽い気体が宇宙空間へ流れ出す散逸率を測定することで、MAVENは火星大気の歴史をたどる手がかりを提供する。

 またMAVENに続いて、インドのマーズ・オービター・ミッション(MOM)が9月24日に火星に到着する予定だ。インド宇宙研究機関(ISRO)は7300万ドルを投じたMOMについて、「状態はすこぶる良好」と先ごろTwitterで報告し、同探査機を火星の周回軌道に到達させるためのエンジン噴射の準備は整っているとしている。

 これまで火星の軌道に探査機を送り込むことに成功しているのは米国、欧州、およびロシアの宇宙機関だけであり、成功すればインドはそうした数少ない国の仲間入りを果たすことになる。

 新たな探査機2機が運用開始となる一方で、直後の10月19日には、サイディング・スプリング彗星が火星に大接近する見通しだ。その際の火星との距離は約13万2000キロと、地球から月までの3分の1ほどしかない。

 また、彗星が引くちりの尾は時速約20万キロで移動しており、探査機に被害が及ぶおそれがあるため、NASAは彗星が接近する間、すべての衛星探査機が火星の陰に隠れるよう調整する計画を明らかにしている。しかし通過後は探査機にとって、彗星が火星の大気に及ぼす影響を間近で観測する絶好の機会となるはずだ。

◆火星年代記

 火星ではほかにも探査すべきものが山ほどある。火星表面では、NASAの火星探査車キュリオシティが2年にわたる移動の末に、いよいよ同ミッションの真の目的地アイオリス山(シャープ山)のふもとに到達した。そこでの分析は、火星がかつて生命居住可能な環境を有していたかどうかを判断する上で、過去最高の手がかりになるとみられている。

 一方で、同じくNASAの火星探査機インサイト(InSight)と、ESAがロシアの協力を得て進めているエクソマーズ・トレース・ガス・オービター(ExoMars Trace Gas Orbiter)が2016年に火星に到達する予定だ。インサイトは火星表面を掘削し、地震活動や地中熱の痕跡を探るという。

 また2018年以降も、さらなる探査車が火星に着陸する予定だ。ESAは同年、再びロシアとの協力の下にエクソマーズ・ローバー(ExoMars Rover)を打ち上げる予定で、同探査車はキュリオシティと同じく火星にかつて有機化学物質が存在した痕跡を探す。

 さらに2020年には、NASAの探査車マーズ2020(Mars 2020)が打ち上げ予定だ。同探査車はキュリオシティの成果を基に改善されたサンプル採取技術を駆使し、キュリオシティとは別の場所で、火星がかつて生命居住可能な環境だった痕跡を調査するという。

◆宇宙の“グローバル化”

 冷戦時代、米国とソ連の間で“月面着陸競争”が繰り広げられたのと同様に、「現在はアジアで複数の宇宙開発競争が同時進行している」と、オーストラリア、シモンストンにあるオーストラリア地球科学機構の国立地球観測グループに所属するジェフ・キングウェル(Jeff Kingwell)氏は、6月の「Space Policy」誌上で述べている。

 例えば中国と日本など、アジアの新興国と以前から宇宙開発を行っている国との間の緊張状態が、かつての米国とソ連のように、今後の宇宙探査を推進する可能性をキングウェル氏は示唆している。

 現在明らかになっている国別の計画としては、例えば今年6月、中国科学院の欧陽自遠(Ouyang Ziyuan)氏が、中国は2020年までに火星に探査車を着陸させる計画だと発言している。中国は2013年、探査車の玉兎(ぎょくと)号を月面に着陸させることに成功した。玉兎号は今なお地球との無線通信は維持しているが、機械が故障して以降、それ以外の面ではほとんど活動停止状態だ。

 また日本は5月末、2030年以降の長期的な宇宙計画に、火星探査の目標を追加した。日本の宇宙機関の一部資料では、この計画を“PLANET-X”と称している。

 さらにロシアも今年、航空宇宙企業ラボーチキン社を率いるビクトル・ハルトフ(Victor Khartov)氏が、2020年に火星の衛星フォボスに初の探査機を送るブーメラン(Boomerang)計画を明らかにした。ロシアは以前にも探査機フォボス・グルントを同衛星に向けて打ち上げたが、地球周回軌道からの脱出に失敗し、2012年に太平洋に落下した。

「現在、複数の国が火星に探査機を送る技術を手に入れており、われわれは国際的な技術の成熟期を迎えている」と、『Why Mars: NASA and the Politics of Space Exploration』(なぜ火星か:NASAと宇宙探査をめぐる政治)の著者で、シラキュース大学のW・ヘンリー・ランブライト(W. Henry Lambright)氏は述べる。「火星は世界の国々を引きつけずにおかない存在であり、その背景にはわれわれがグローバリゼーションと呼ぶ大きな流れがある」。

◆惑星探査をめぐる政治

「火星は有人宇宙(探査)の“目玉”であり、人類の移住先として当然候補に挙げられる」と、スミソニアン協会で宇宙史を研究するローニアス氏は述べる。「この問題は今後も常に多くの関心を呼び起こすだろう」。

 宇宙開発を行っている国の中では今のところ、米国が2030年代に火星に宇宙飛行士を送る計画を最も具体的に進めているが、計画がどうなるかは資金、パートナー、ロケットの性能しだいだ。またスペースX社のイーロン・マスク氏も、同社の「ファルコン9」ロケットの重量貨物打ち上げ版を使って移住者を火星に送る計画を口にしている。2013年のスピーチで「私は火星で死にたい。ただし衝突事故以外で」と発言したのは有名な話だ。

 NASAのチャールズ・ボールデン(Charles Bolden)長官などは、有人火星探査は1つの国だけで実行するのは困難であり、国際的な協力が必要だとの見解を示している。火星に宇宙飛行士を送るコストは、一部試算によると40年間で3000億ドル前後にのぼるという。

 数多くの火星ミッションが計画されていることに関して、問題はそれが各国の協力につながるかどうかだとランブライト氏は指摘する。「注目すべきは今後、個々の国家的ミッションが、より息の長い国際的ミッションに置き換わる時期がやってくることだ。まだそのような時期は来ていないが、おそらく将来そうなるだろう」。

Images by NASA / Goddard

文=Dan Vergano

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