ワシントンD.C.にあるスミソニアン渡り鳥センターのピート・マーラ(Pete Marra)所長は、記者会見を開き、人間活動は鳥類に甚大な影響を及ぼしかねず、たとえ十分な生息数がある場合でも例外ではないと述べた。
アメリカの鳥類は、外来種の侵入、新しい病気、生息地の消失、気候変動など、おびただしい脅威にさらされている。今なら、保護活動と生息環境の修復によって鳥類を救うことはできる。ただし、ただちに実行しなければならないとマーラ氏は言う。
今回発表されたのは「State of the Birds」年間報告書の第5弾であり、アメリカの鳥類の生息状況を総合的にとらえた最新の報告書である、と米国魚類野生生物局(FWS)のダン・アッシュ(Dan Ashe)局長はインタビューに応えて語っている。研究者たちは、1968~2012年(海岸に生息する鳥については1974~2012年)の長期間にわたって収集された鳥類の生息に関するデータを用いて評価を実施。これらのデータは、オーデュボン協会が毎年行っているクリスマス・バード・カウントや、米国地質調査所の繁殖鳥調査などから得られたものである。
◆明暗入り混じる状況
報告書では、鳥を生息環境(草原、低木が群生するシャパラルや砂漠などの乾燥地帯、森林、湿地帯、海岸、洋上、島)ごとに分類。このうち、湿地帯を除く全ての環境で生息数が減少している。
「朗報としては、湿地帯の鳥が増えていることが挙げられる」とマーラ氏は話す。1968年以降、80種で増加が確認されているという。これは一部の種に限られたことではない。「多くの種が一斉に増加していることで、このような結果につながった」とマーラ氏は言う。
このような明るい兆しが見えてきたのは、アメリカ国内の湿地帯における保護活動と生息環境の修復に向けた取り組みが功を奏した結果だ、とマーラ氏は説明する。
しかし、鳥類全体で見ると課題は多く残されている。調査対象となった他の生息環境では生息数は減少の一途をたどっており、その傾向は特に島で深刻になっている。
◆健康に注意
米国絶滅危惧種法(ESA)をはじめ、複数の保護活動や政策が功を奏しているものの、このような保護が必要になるまで数を減らさないようにすることが望ましい、とマーラ氏は指摘する。健康な鳥の増加は健全な環境の目安になるだけでなく、経済的な利益をももたらすと、同氏は言う。保護活動をすればコストがかさみかねないためだ。
ESAはカリフォルニアコンドルやハクトウワシなどの保全に大いに貢献している、とFWSのアッシュ局長は言う。「だが、ESAはいわば緊急治療室のようなものだ。まずは総合的な健康管理によって、緊急治療室行きをなくし、コストを抑えることが肝要だ」。
鳥類を緊急治療室に送らなくてもすむように、一丸となって取り組む必要があるとアッシュ氏は指摘する。
Photograph by Frans Lanting / National Geographic Creative