シロナガス個体数、船舶衝突の影響は?

2014.09.08
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
カリフォルニア州南部沖、チャネル諸島周辺の海を泳ぐシロナガスクジラ。

Photograph by Wolcott Henry / National Geographic Creative
 北太平洋東部のシロナガスクジラの個体数は、商業捕鯨による減少から回復を遂げたと最新研究が報告している。研究はさらに、長らく個体数回復の大きな妨げになっているとされてきた船舶との衝突事故は、おそらく大きな脅威ではないと結論付けている。 この驚くべき研究結果はニュースで大きく報じられているが、専門家はこれに疑問を呈している。

 同研究では、コンピューターモデルを使って、北太平洋東部のシロナガスクジラの推定個体数を、商業捕鯨によって激減する前、現在の生息数、および今後の傾向に分けてそれぞれ割り出した。その上で、クジラの個体数にとって、船舶との衝突事故と、環境が一定の個体数を維持する能力、どちらの影響がより大きいかを分析した。

 その結果、「船との衝突は、当該のクジラの個体数にとって差し迫った脅威ではない」ことが明らかになったと、研究の主著者で、ワシントン大学の博士課程に在籍するコール・モナハン(Cole Monnahan)氏は述べる。北太平洋東部のシロナガスクジラの個体数が増えていないのは、船との衝突が原因というよりも、北アメリカ西岸沖の海域がこれ以上の個体数を維持できないためだという。

 モナハン氏によると、北太平洋東部のシロナガスクジラの個体数は現在約2200頭で、この数字は1993年以降ほとんど変わっていない。「そのため何か原因があって、おそらく船との衝突が(シロナガスクジラの個体数に)影響しているのではないかと考えられてきた」とモナハン氏は述べる。

 今回対象としたのは、あくまで北太平洋東部のシロナガスクジラの個体数のみであることを研究チームは指摘している。つまり今回の研究結果は、全世界のシロナガスクジラの個体数回復を示しているわけではない。現に2013年の研究では、南極大陸の周辺海域におけるシロナガスクジラの歴史的な個体数は約30万頭と推定しているのに対し、同海域における現在の個体数は、最近の推定で約2000頭となっている。

◆結論を出すのはまだ早い

 ワシントン州オリンピアにあるカスカディア研究集団の上級生物学研究員ジョン・カランボキディス(John Calambokidis)氏は、問題は「この種のモデルがその他の脅威、例えば海洋温暖化などが個体数に影響していないと想定していること」だと指摘する。

 今回の研究の結論には少々無理があると、カランボキディス氏は述べる。個体数に関するデータの信頼性に問題があるからだ。商業捕鯨船による歴史的な捕獲数は実際より少なく報告されていることで知られ、また船との衝突によるシロナガスクジラの年間推定死亡数も同様だが、どちらのデータも今回の研究に使用されている。

 研究チームもこれらの問題点を認めてはいるが、コンピューターモデルにおけるデータの扱いに難があり、それによって「船との衝突はシロナガスクジラにとって脅威ではないという誤った結論が導き出された可能性」があると、カランボキディス氏は述べる。

 オレゴン州立大学で海洋哺乳類研究所の責任者を務めるブルース・メイト(Bruce Mate)氏は、さらにもう1つの問題点を指摘する。それは今回の研究が、1900年代初めから現在まで環境収容力(環境が一定数の生物を維持する能力)が変化していないと想定していることだ。

 メイト氏は、米国アラスカ州とロシアを隔てるベーリング海のコククジラを対象に自身が行った研究を例に、生息域の環境収容力は短期間に変化しうると指摘する。

 コククジラは10年ほど前まではベーリング海に集中し、海底の生物を餌にしていたが、「現在では状況が変化し」、コククジラはみなベーリング海の北に移っているとメイト氏は述べる。原因は「コククジラが元の生息域の餌を食べ尽くしてしまった」ためだという。

「(今日の)環境は100年前の環境と同じではなく、生物がその環境に再び生息するにしても、(生息の仕方は)以前とかなり異なっている可能性がある」とメイト氏は述べる。

◆今後の研究

 研究を手がけたモナハン氏らは目下、シロナガスクジラの研究の対象範囲を北太平洋全体に拡げようとしている。北太平洋東部のシロナガスクジラの個体数は、いくつかの点で最も研究が容易だとモナハン氏は述べる。「ハワイや日本、韓国周辺の太平洋西部におけるシロナガスクジラの個体数については、はるかに情報が少ない」。

 モナハン氏によると、商業捕鯨船に捕獲されたシロナガスクジラの数は、太平洋西部のほうがはるかに多く、また歴史的な個体数のデータも把握しにくいという。

 さしあたって今回の研究は、「船との衝突が(シロナガス)クジラの個体数にとって差し迫った脅威にはならないと述べているにすぎない」とモナハン氏は述べている。

 今回の研究は、9月5日付で「Marine Mammal Science」誌に発表された。

Photograph by Wolcott Henry / National Geographic Creative

文=Jane J. Lee

  • このエントリーをはてなブックマークに追加