ネアンデルタール人による彫刻を発見か

2014.09.02
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ネアンデルタール人が刻んだとされるパターン。現生人類以外の手による抽象的なデザインとしては初めての発見になる。

Photograph courtesy Stuart Finlayson
 イベリア半島、南東端のイギリス領ジブラルタルで、3万9000年以上前のネアンデルタール人が苦灰岩(くかいがん)に刻んだと考えられる抽象的なパターンが発見された。その後の最新の研究から、現生人類しか持たないとされていた抽象的な思考能力を、彼ら旧人が既に備えていたのではないかという可能性が生まれている。 ネアンデルタール人は現生人類に最も近い近縁種で、その遺伝的痕跡が引き継がれている。およそ4万年前にヨーロッパ地域から姿を消したと言われているが、これは初期の現生人類がヨーロッパに到達した時期とほぼ一致する。

 ネアンデルタール人が駆逐された要因の1つと考えられてきたのが、現生人類が備えていた抽象的な思考能力と言語だ。しかし、ジブラルタルの洞窟で発見された網目状のパターンは、彼らにも芸術性や同様の能力があった事実を示唆している。

 研究グループを率いたジブラルタル博物館のクライブ・フィンレイソン(Clive Finlayson)館長は、当時の様子を語る。「現実を目の前にして、すぐには受け入れられないほどの衝撃だった。これがアートなのか落書きなのかはわからないが、抽象的な模様であることだけは確かだ」。

 現場は海岸近くのゴーラム洞窟(Gorham's Cave)で、入り口から100メートルほどの小さな岩棚から発掘されたという。ゴーラム洞窟はネアンデルタール人の住居として知られ、一帯にはシカなどの獲物が数多く生息していたが、ハイエナなどの捕食動物も少なくなかったと考えられている。

◆“抽象的思考能力”を示す証拠が争点

 初期の現生人類による“洞窟美術”はヨーロッパ各地で発見されており、アフリカには7万5000年前に貝製のビーズを取り引きしていた痕跡も残されている。一方、ネアンデルタール人は、弱者へのいたわりや死者の埋葬習慣はうかがわせるが、装飾が施された遺物はほとんど残していない。

 彼らの抽象的な思考能力の有無は、数々の証拠を基に大きな論争となっている。スペインのエル・カスティージョ洞窟で発見された、およそ4万800年前の手形や彫刻についても、どちらが残したのか数十年にわたって議論が続いてきた。洞窟内からは補強証拠となる骨も道具も発見されておらず、現在も決着はついていない。

 しかし、ゴーラム洞窟で見つかった長さ15センチ前後の線を網目状に刻んだ彫刻は、ネアンデルタール人の“ごみ捨て場”の地層の下に埋もれていた。前出のフィンレイソン氏は、「抽象的なパターンで、ほとんど幾何学形状といってよい」と話す。

 ネアンデルタール人が使っていた鋭利な石器の模造品で岩棚の硬い苦灰岩を削る実験を行ったところ、石器を50回以上往復すれば線を刻むことができたという。また、苦灰岩に皮を当ててそれを切った場合、鋭い溝は刻まれないこともこの実験から判明した。

◆積み重ねられる傍証の数々

 放射性炭素年代測定の専門家であるイギリス、オックスフォード大学のトム・ハイアム(Tom Higham)氏によると、今回の分析は極めて精密に行われ、何らかの動物が網目状の線を残した可能性は低いという。

 また研究グループは、洞窟奥部の岩棚はネアンデルタール人の寝床と考えられるという。洞窟の入口に火をたいておけば、当時ヨーロッパに生息していたライオンやハイエナ、オオカミなどの外敵から身を守ることができた。「のんびりと岩に線を刻むには格好の場所だ」とフィンレイソン氏は話す。

 研究グループは、現生人類以外の手になる抽象パターンとしては初めての発見と主張。さらに、「抽象的な思考能力が現生人類の専売特許ではなかったということになる」と結論付けている。

 今回の研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に9月1日付けで掲載されている。

Photograph courtesy Stuart Finlayson

文=Dan Vergano

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