リョコウバト、100年ぶりの復活へ

2014.09.02
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
リョコウバトは乱獲が原因で絶滅した。写真は最後の1羽となったマーサ。ワシントンD.C.にあるスミソニアン協会アメリカ自然史博物館所蔵の剥製標本。

Photograph by Robb Kendrick / National Geographic Creative
 100年前の9月1日、かつて強大な勢力を誇っていた1つの種が絶滅した。シンシナティ動物園で飼育されていたリョコウバトのマーサが29歳の生涯を終えた日だ。 1800年代半ばまで、耳をつんざくような声で鳴くリョコウバトの群れがアメリカの東半分に何十億羽も生息していた。ところが、人間にはかなわなかったようで、急激に進歩した技術によってものの数十年で絶滅まで追い込まれた。

 絶滅から100年が経過した現在も、リョコウバトは象徴的な存在であり続け、技術的な偉業を目指す人々にひらめきを与えている。遺伝子工学やクローニングを組み合わせ、絶滅したリョコウバトをよみがえらせようと試みる研究チームもあれば、DNAの断片を解析し、今や謎に包まれてしまったその生態を再現しようという研究も進められている。

◆技術によるとどめの一撃

 初期の博物学者にとって、リョコウバトが絶滅するなど想像しがたいことだった。技術革命の足音が近付いていることに気付いていなかったためだ。

「電報の発明によって、“ハトはここにいる”と知らせることが可能になった」。アメリカ科学環境評議会(National Council for Science and the Environment)の上級研究員で、リョコウバトプロジェクト(Project Passenger Pigeon)の発起人でもあるデイビッド・ブロックスタイン(David Blockstein)氏はこう説明する。何千もの狩猟者がこぞって発明されたばかりの列車に乗り込んだ。そして、リョコウバトがいると言われればどこへでも行き、乱獲を始めた。

 狩猟者たちは家族が食べる分だけ捕まえていたわけではない。たるいっぱいにリョコウバトを詰め込み、いくつものたるを列車に積み込んだ。リョコウバトが詰まったたるは遠く離れた都市に運ばれ、青空市場から高級レストランまで、あらゆる場所で売られた。「技術が市場を生み出した」とブロックスタイン氏は話す。

 ほどなく、リョコウバトは激減した。この事態を重く見た連邦議会はレーシー法を可決した。アメリカで最初につくられた野生生物保護法の一つだ。レーシー法は後に多くの種を救った。しかし、リョコウバトを救うには遅すぎた。

 レーシー法が成立した1900年、博物学者たちがオハイオ州で野生のリョコウバトを発見した。これが野生で確認された最後の1羽となった。

 それから14年にわたり、リョコウバトはいくつかの動物園で何とか生きながらえていた。しかし、飼育下での繁殖には適していなかったようだ。最後の1羽となったマーサも卵を産むことはなかった。

◆DNAがリョコウバトをよみがえらせる

 こうして技術によって絶滅を迎えたリョコウバトだが、一部の科学者はその技術によってリョコウバトをよみがえらせることができると信じている。マーサが死んだ当時、生物学者は遺伝子がDNAでコードされていることすら知らなかった。今では、博物館に保存されているリョコウバトからDNAを抽出することさえできる。

 2012年、科学者のグループがリョコウバトのクローンを作成するプロジェクトを立ち上げた。たとえクローン作成がかなわなくても、遺伝子操作によってリョコウバトの形質を持つ鳥を作成したいと考えている。

 このプロジェクトに取り組むのは、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のベン・ノバク(Ben Novak)氏らのグループだ。ノバク氏らは博物館にあるリョコウバトの標本から完全なゲノムを抽出することにいまだ成功していない。そこで、次善策に期待を掛けている。現存する別の鳥のゲノムを入れ替え、リョコウバトを生み出すという方法だ。

 リョコウバトに最も近い現生種はアメリカ西部に分布するオビオバトだ。博物館の標本から抽出したDNAの断片にリョコウバト固有の配列が含まれていれば、くさび形の尾や赤い胸、極度に社会的な行動といったリョコウバトの特質を再現できるかもしれないと、ノバク氏らは期待する。これらの特質を持つ現生種を調べれば、遺伝的な基盤を特定できる可能性もある。

 まず、リョコウバトによく似たゲノムを作成し、この操作されたDNAをオビオバトの胚の生殖細胞に挿入する。オビオバトが成熟、繁殖、産卵すれば、卵からかえるのはリョコウバトのひなという筋書きだ。少なくとも、在りし日のリョコウバトとそっくりな鳥が生まれるはずだ。

◆リョコウバトが残した教訓

 たとえリョコウバトをよみがえらせることができなくても、リョコウバトの絶滅が大きな教訓となり、現在の絶滅危惧種の保護に役立てることができると、ブロックスタイン氏は考えている。

 例えば、個体数が多いからといって絶滅の心配はないと考えるのは間違っている。「絶滅危惧種の分類は生態より個体数に基づいている」とブロックスタイン氏は説明する。個体数が数十億の種にも生物学的な弱点はあり、そこを突かれれば人間の圧力に負けてしまうかもしれない。

Photograph by Robb Kendrick / National Geographic Creative

文=Carl Zimmer

  • このエントリーをはてなブックマークに追加