“左利き”の生き残り戦略

2009.02.27
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2009年1月22日、アメリカ、ワシントンD.C.のホワイトハウスにて、左利きのアメリカ大統領バラク・オバマ氏が大統領命令に署名した。新しい研究によると、一般的に、オバマ氏を含めた左利きの人は1対1の戦いにおいて有利かもしれないという。生存上のハンデがあるにも関わらず左利きの人が依然として存在しているのは、そのような優位性が働いている可能性が高い。

Photograph by Charles Dharapak/AP
「私は左利きなんです。どうか慣れてください」と、バラク・オバマ氏はアメリカ大統領として初めて公式文書に署名する際におどけて見せた。 これからは右利きの人も少数派の左利きに“慣れる”必要がありそうだ。病気や事故のリスクが高いとはいえ、左利きが絶滅することなどありそうもない。

 最近の研究によると、左利きという少数派が生き残ってきた歴史には、余り知られていない暗部が隠されているかもしれないという。それは、“不意打ち”という要素である。

 フランスにあるモンペリエ大学進化科学研究所の研究チームによると、テニスの試合でも、ナイフを使った決闘でも、人類の90%を占める右利きは左側からのアプローチに不意を突かれるという。また、一般的に左利きの男性の方が右利きの男性よりも経済力が高いともいわれている。

 イギリス王立協会発行の学術誌「Philosophical Transactions of the Royal Society B」の最新号で発表された今回の報告は、研究チームが収集を進めた左利きに関するデータを徹底的に調べた成果である。

 調査では、統合失調症、てんかん、自閉症、学習障害といった病気のリスクが高まるなど、多くの生存上のハンデが見つかっている。重大な事故に遭遇する確率も高いらしい。その理由としては、機械化された現代社会がおおむね右利き用に作られているためだという。

 左利きの男性については、繁殖という面でも不利な立場にあるかもしれない。左利きの平均身長は低い場合が多く、女性に対するアピール力が弱いというのがその理由だ。

 左利きが10%という少数派に甘んじているのは、以上のような障害が要因となっている。世界中のどこを探しても、左利きが30%を超える地域は見あたらない。

 では、生存上のハンデがあるにも関わらず、少数派である左利きはどのようにして絶滅を免れてきたのだろうか。

 スポーツの個人種目では右利きよりも左利きの方が成功している。テニス選手を例に取ると、ジョン・マッケンロー、マルチナ・ナブラチロワ、ジミー・コナーズ、そして現世界ランク1位のラファエル・ナダルといった歴代のチャンピオンはいずれも左利きである。

 今回の研究を共同で率いたシャルロット・フォーリー氏は、暴力による殺人の統計調査で類似点を見いだしている。 「“まれ”な左利きに相対すると左からの攻撃に不意を突かれてしまう。これが左利きに有利に働くのである。テニスでも、ボクシングでも、面と向かって戦うスポーツなら同じ影響がある」と同氏は説明する。

 フォーリー氏が調査したのは、ナイフや弓矢のような昔からある武器を使った殺人である。「右からと左からでは弾道も違うため、銃でも結果は同じだろう」と同氏は話す。

 また同氏は、「戦いでの戦略的なメリットが自然淘汰に有利になり、左利きは世代が進むにつれて増えていくことになる」と解説する。ただしその増加要因も、生存上のハンデが影響して結局は相殺されることになる。さらに、「戦いの勝者は異性へのアピール力が増し、結果として繁殖が有利になる」とも話している。

 左利きには戦い以外にも優れた面がある。例えば、左利きは両手使いの割合が右利きよりも多い。また、IQ 131を超える知能の優れた子どもは左利きである確率が高いという。

 研究チームは、左利きのフランス人男性は右利きよりも平均収入が高いという事実も突き止めた。この件については、他のヨーロッパ諸国でも同じ結果が出ている。フォーリー氏は、「経済的な成功は、繁殖の成功と直結している。したがって、収入の高い左利きはより多くの子をもうける可能性があり、結果として左利きが増えていくことになる」と結論付けた。

Photograph by Charles Dharapak/AP

文=James Owen

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