訓練した大ネズミで結核診断

2014.08.18
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結核菌が含まれる唾液検体を嗅ぎ分けたマリアに褒美を与えるトレーナーのオネシア・ナンパラ(Onesia Nhampara)氏。モザンビークの首都マプトにあるAPOPOの研究所で撮影。

Photograph by James Pursey / APOPO
 モザンビークの首都マプトのとある研究室。そこで目にしたのは、世界で2番目に死亡者数が多い疾患である結核の陽性検体を、タリクが正確に特定する光景だった。 タリク(Tariq)は科学者ではなく、研究用ネズミ(正確にはアフリカオニネズミ)である。ここエドゥアルド・モンドラーネ大学獣医学部では、タリクを含む9匹の訓練されたネズミが交代でガラス張りのケージに入り、検体が陽性かどうかを嗅ぎ分けている。

 ベルギーの非営利団体APOPOは地雷探知にネズミを活用する事業で知られるが、近年は結核菌を検出するネズミの訓練にも力を注いでいる。APOPOは2008年にタンザニア、2013年にはモザンビークで結核菌検出ネズミの実用を開始。現在、ネズミたちはタンザニアの首都ダルエスサラームにある21の病院で活躍しているほか、モザンビークの首都マプトでは診療所から回収された疑わしい検体の75%について再検査を行っている。

 世界保健機関(WHO)によると、2012年の結核死亡者数はアフリカ全体で48万人、モザンビークに絞っても5万8000人に上る。革新的で迅速、安価な検出法の開発が急務だった。

 これまでのところ、ネズミたちへの期待は高まるばかりだ。マプトでは実用化以来、16カ月間で約1万2500検体がネズミに嗅ぎ分けられた。そのうち、診療所で陽性と判定されていたのは1700検体。APOPOによると、ネズミはさらに患者764名の陽性検体を特定し、検出率を約44%押し上げたという。

◆見落とされる結核

 モザンビークは他の発展途上国と同様、1世紀以上前から存在する結核菌検出法に頼らざるを得ない。だが、こういった検査の正確さは、検査技師の能力や設備の状態に大きく左右される。

 過去にWHOの結核プログラムに携わっていた結核とHIVの専門家ガエル・クラカン(Gael Claquin)氏によると、モザンビークでは結核症例の半数以上が見落とされているという。

◆仕組み

 APOPOが本拠地を置くタンザニアのモロゴロで9カ月間の訓練を受けたネズミたちは、マプトまたはダルエスサラームで仕事に臨む。

 APOPOがマプトで実施する結核プログラムの指導責任者エミリオ・バルベルデ(Emilio Valverde)氏は、「結核菌のにおいと報酬を関連づけさせる訓練を行っている。オペラント条件づけと呼ばれる手法だ」と説明する。

 訓練されたネズミは、結核菌の存在を示す特定の分子のにおいを嗅ぎ分けることができる。

 ネズミが結核の可能性を示唆した検体については3回目の検査を行い、陽性と判定されれば診療所に報告する仕組みだ。

 ネズミの訓練には1匹あたり約6700~8000ドルの費用を要するが、6~8年の寿命を迎えるまでの費用は比較的少ない。それに対し、最新の迅速診断検査システム「ジーンエキスパート(GeneXpert)」は1台1万7000ドルと高額な上、1回の検査につき約10~17ドルの費用がかかる。

◆ネズミの難点

 とはいえ、良い面ばかりではない。クラカン氏によると、ネズミは結核菌と結核の薬剤耐性菌株を嗅ぎ分けることができないのだという。

 さらに、まだ規模の小さいこのプログラムを拡大させることは困難だろうとモザンビーク国連開発計画(UNDP)常駐代表ジェニファー・タッピング(Jennifer Topping)氏は見ている。

 現在、マプトでは診療所で採取された検体を週に1度回収し、ネズミのいるエドゥアルド・モンドラーネ大学獣医学部に運ぶことになっている。

 プログラムが拡大すれば、ネズミが地方の研究所や病院で飼育される可能性が高い。モザンビーク保健省のイヴァン・マニサ(Ivan Manhica)氏は、この型破りな方法について人々がどう感じるかを調べる必要があると話す。

◆残る課題

 それだけではない。APOPOのバルベルデ氏によると、ネズミが疑わしいと示唆した検体のうち、結核菌陽性と判定されるのはわずか25%。

 しかし同氏によれば、残りの75%が陰性というわけでもない。まだ単独では診断ツールとして受け入れられていないネズミの判断だけで陽性とすることができないのだ。

 とはいえ、バルベルデ氏はネズミによる結核菌検出の将来性に胸を高鳴らせている。

 タリクと彼の仲間たちはというと、一日の仕事を終えて自分のケージに戻されるなり顔を洗い、ごく普通のネズミとして時間を過ごすのが日課だ。

Photograph by James Pursey / APOPO

文=Katya Cengel

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