コガシラネズミイルカ、絶滅寸前

2014.08.14
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野生ではわずか97頭が生息するのみとなったコガシラネズミイルカ。カリフォルニア湾での違法な刺し網漁が原因で、近年その数が激減した。

Photograph by Flip Nicklin / Minden Pictures / Corbis
 メキシコのカリフォルニア湾北部にだけ生息する希少なコガシラネズミイルカが激減していることが8月初旬、国際研究チームによって発表された。 スペイン語で「小さな牛」を意味する「vaquita(バキータ)」と名付けられたこの海洋哺乳類は、近年漁師の放つ刺し網にかかって相次いで溺死している。現在では97頭が生息するのみとなった。既に絶滅したヨウスコウカワイルカに続き、2018年までに絶滅すると予測されている。

 コガシラネズミイルカ(Phocoena sinus)は非常にシャイな動物で、網にかかった死体が引き上げられる以外、人前に姿を現さない。その生態が確認されたのはごく最近のことで、1958年、浜辺に打ち上げられた3つの頭蓋骨が最初である。当時の生息数は、数千頭と推定された。

「チーム一丸となって懸命に活動してきたのに、大変がっかりしています」と語るのは、研究チームのメンバーで、メキシコ国家自然保護区委員会(CONANP)の鯨類保護スペシャリスト、ロレンソ・ロハス・ブラチョ(Lorenzo Rojas-Bracho)氏だ。

 コガシラネズミイルカの生息数が200頭まで減少した2012年、メキシコ政府は大統領直轄の委員会を設置している。

◆失策

 2005年、メキシコ政府は全ての商業漁業を禁止した保護区を設けて監視を徹底した。漁業者に対しては、別の漁法に切り替えることを条件に3千万ドル(約30億円)を上回る補償金が支払われた。

 さらに、政府は国際科学研究チームを発足し、専門家による生息数や繁殖率、そして生息域の調査が行われた。

「これらの対策により1年に4%の増加を期待していたが、実際には1年に18.5%の減少となった」と、サンディエゴにある米国海洋大気庁(NOAA)南西漁業科学センターの海洋生物学者バーバラ・テイラー(Barbara Taylor)氏は話す。

◆不運な混獲:中国での需要

 カリフォルニア湾ではここ3年の間、絶滅危惧種の魚トトアバの違法な刺し網漁が横行している。トトアバ(Totoaba macdonaldi)は体長1.8メートル、体重130キロにもなる大型魚。コガシラネズミイルカとほぼ同じ大きさで、不運なことに同じ海域に生息するため混獲されやすい。

 トトアバの浮き袋は中華料理の高級食材あるいは薬の原料として珍重され、1つあたり1万ドル(約100万円)で取引されることもある。

 研究チームの推定では、9月中旬から6月中旬の漁期中、毎日およそ700キロメートルに相当する合法な網が投げ込まれる。「それには、トトアバを狙う違法な網は含まれません」とテイラー氏は指摘する。

◆最終手段

 コガシラネズミイルカの臆病な性格から、目視で生息数を確認することができない。そこで研究者らは、毎年漁期が始まる前に特別な音響装置を海に沈め、彼らの発する音を録音し、数を推定する。

 ここまで数が少なくなると、コガシラネズミイルカを救う道はもはや1つしかない。保護区を含むカリフォルニア湾北部での刺し網漁を全面禁止するという方法だ。合法なエビや魚類の刺し網漁も含め厳しく規制し、海上と陸上両方からのパトロールを強化する必要がある。

 このような規制は、密漁に加担していない全ての漁業者に深刻な影響を及ぼす。それでも、メキシコ政府が断行しなければ、コガシラネズミイルカは絶滅するとテイラー氏は言う。

 ロハス・ブラチョ氏によると、メキシコ、中国、アメリカ政府が協力してトトアバの密漁を監視する必要もあるという。浮き袋はメキシコからアメリカを経由して中国の市場に出回ることが多いからだ。

 危機的な状況だが一縷の望みはある。わずか97頭(そのうち25頭は生殖可能なメス)でも、まだ救うことができるとテイラー氏は考えている。「鯨類を含む海洋哺乳類の多くは、これまで乱獲によって一度は激減したものの回復してした。決して遅くはない」。

Photograph by Flip Nicklin / Minden Pictures / Corbis

文=Virginia Morell

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