有毒な藻の大繁殖、各地で増加のおそれ

2014.08.05
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2011年に発生した大規模な藻類ブルーム。当時、エリー湖の湖面は緑色に染まった。

Photograph by Peter Essick / National Geographic
 先週末、アメリカのオハイオ州トレドで水道水が飲用禁止となり、50万人近くが料理や風呂などにも使えない事態となった。きっかけは、アメリカとカナダの国境にある五大湖の1つ、エリー湖で確認された有毒な藻類(アオコ)の異常発生(有害藻類ブルーム=HABs)である。2011年に続く非常事態で、原因として人口増加や農法、水温のほかにも、気候変動の影響が指摘されている。専門家の間では、今後世界各地で同様の事態が相次ぐ可能性があり、今回はその序章にすぎないという声も多い。 飲用禁止令は週明けの4日に解除されたが、専門家はアメリカをはじめ世界各地の沿岸海域や淡水域での大量発生が、従来を上回るペースで頻発していると指摘。水道水が有毒物質に汚染される原因となるばかりか、野生生物に対する重大な被害が予想されている。

 フロリダ州では2013年明けに、HABsが原因で海洋生物のマナティーが大量死している。またカリフォルニア州では2014年、HABsから逃れるため膨大な数の海洋哺乳類が州内各地の保護施設に移された。

 HABsは神経系に作用する毒素を生産し、人体に入ると麻痺や神経発作の症状が現れる。その影響が最も多く報告されているのは海洋哺乳類や鳥類だ。

 ミシガン州アナーバーにある米国海洋大気庁(NOAA)五大湖環境調査研究所(Great Lakes Environmental Research Laboratory)でHABsを専門に研究している生態学者のティモシー・デイビス(Timothy Davis)氏は、「発生数が増えている一因は、地球規模の気候変動にある」と話す。

 藻類ブルームの正体は、水面を覆い尽くすように大量発生した微細な藻類やバクテリアだ。先週末、オハイオ州の浄水場を汚染したのも、ミクロキスティスと呼ぶバクテリアで、高水温でリンや窒素が豊富に存在する環境を好んで繁殖する。

 最近は気候変動の影響で、五大湖をはじめ世界各地の水域で水温が上昇している。さらに、地球温暖化によって暴風雨が強大化する傾向を示す一部の地域では、藻類に栄養を供給する土砂の流出量も増加するおそれがある。

 ちなみに流出土砂に含まれる窒素やリンは、浄化槽からの漏出物、農地や芝地で使用された肥料などに由来している。

◆重要なのは腰を据えた対策

 もっとも、すべての藻類ブルームが毒素を生産するわけではない。エリー湖でのHABsの主役、ミクロキスティスの仲間には、毒素を生産しない種類も存在する。

 デイビス氏によれば、世界中のミクロキスティス属のうち約半数の種は毒素を生産しないが「気候変動がどう影響するかはわからない」という。バクテリアの性質が気候変動によって変化する可能性を探る研究が、今も続けられている。

 海岸地域や淡水域周辺で暮らす人々の健康や経済活動に、HABsが深刻な影響を与える場合がある。オハイオ州の水道水から検出された毒素ミクロシスチンは強い肝臓毒活性を示し、嘔吐や吐き気、めまい、下痢、しびれなどの症状を引き起こす。

 一方で、藻類ブルームが繁殖力を弱め、やがて全滅すると、今度はその死骸をエサとするバクテリアが大量に繁殖、水中に溶存する酸素をほぼすべて消費してしまう。その結果、生物が生息できない“死の海域”という別の生態学的な問題が生じることになる。

 大量発生の拡大に伴って死の海域も世界各地に出現するようになり、昨年の夏のメキシコ湾では、琵琶湖の20倍を超える面積に匹敵する海域で生物が消失した。

 エリー湖のような水域環境がバランスを完全に失う日は遠からずやって来るとデイビス氏は警告する。しかし、長期の管理態勢の下で忍耐強く取り組めば、湖を正常な状態に戻すことは可能だ。

「即効性のある解決策など存在しないという現実を直視する必要がある。バランスが傾いてしまった湖沼や沿岸部の環境は、簡単には元に戻らない」。

Photograph by Peter Essick / National Geographic

文=Jane J. Lee

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