都市は人を引寄せる、2千年前から同じ

2014.08.01
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1936年に撮影されたパリの風景。過去500年間、パリは文化的中心地として“磁石”のように人々を引き寄せてきた。

Photograph by W. Robert Moore / National Geographic
 パリの大都会を訪れて魅了された人を、田舎に引き止めておく方法はあるだろうか? 今週発表された研究によれば、どうやらそれは難しそうだ。歴史上の人物15万人分のデータ分析から、いくつかの都市が長い間、“磁石”のように文化的に人を引き付けてきた様子が浮かび上がった。 人々は現代と同じように、何世紀も前から同じ移動パターンで地方から都市へと移動を続けてきたという。

 研究責任者でテキサス州リチャードソンにあるテキサス大学ダラス校のマクシミリアン・シック(Maximilian Schich)氏は、「データによると、パリは1500年前からフランスの文化的中心地だった。一方、ドイツでは多数の都市がその役割を担った」と話す。

 ビッグデータを自由自在に扱う統計解析のプロ、データ・サイエンティストたちは、この10年余り歴史の理解のために科学に目を向けてきた。生態学や統計学の手法を借りて、例えば、「ローマはいつどのようにヨーロッパの文化的中心地をパリに譲ったのか?」といった疑問を解明しようとしている。今回の研究も、過去2000年間の文化的な移動について極めて詳細なデータを提示している。新しいデータ重視型の手法を用いて歴史研究を行い、人の移動の推移を地図に表した。

 まず、古物商から芸術家、スポーツ選手まで、歴史上の人物の出生地と死亡地を記録した3つの大規模データベースを組み合わせた。コートダジュールからハリウッドまで、15万3000件の場所が含まれ、人々の生存期間は紀元前1069年から西暦2012年までと広範にわたる(ただし、統計上の信頼性を高めるため、分析は西暦1世紀以降を対象とした)。

 研究チームは人口全体ではなく対象を絞っているがその理由について、「データが存在するからだ。貧しい庶民はほとんど記録に残っていないから」とシック氏。

「それでもかなりのデータ量になるが、扱えないほどではない」と語るのは、コネティカット州ストーズにあるコネティカット大学の社会科学者ピーター・ターチン(Peter Turchin)氏。今回の研究には参加していないが、データ重視型の歴史研究のパイオニアだ。「10年前は、歴史的データがどれほど存在するか誰もわかっていなかった」。

◆昔から変わらない移動パターン

 現在は、2000年から人々を引き寄せていた移動の中心地の多くが、今も“人気スポット”の地位を維持している事実が判明している。また、移動パターンの詳細も明らかになり、地方から大都市へと人が流れる様子が何世紀にもわたって見て取れる。

 人が一生の間に移動する距離も、過去8世紀でほとんど変わっていなかった。自動車や飛行機の出現にも関わらず、14世紀の214キロから現在の382キロに伸びただけだ。シック氏は、「この数字も、1492年以降、ヨーロッパから新大陸への航路が開かれて、新たな3000マイル(4828キロ)が加わっての話だ」と語る。

「過去の人々は現代の私たちとそれほど違わない」とシック氏。今回のデータには17世紀に中国を訪れたイエズス会宣教師の記録も含まれているが、「長距離を移動する確率は現代人も同程度だ。不思議なものだね」と笑いながら答えた。

◆歴史は繰り返す

 ターチン氏は、「今回の研究は仮説の検証ではなく、観察できるようにデータをまとめたにすぎない」と釘を刺している。

「注目すべき結果だが、この論文で科学的疑問を検証しているわけではない」。例えば、このデータからは、ローマが衰退する一方でパリが発展した理由はわからないという。 研究責任者のシック氏は、「人口動態データを歴史の幅広い見方に変換する方法を提示した。望遠鏡で星を観察する天文学者と同じように、私たちは数字を駆使して過去を分析している」と述べている。

 今回の研究結果は、8月1日発行の「Science」誌に発表された。

Photograph by W. Robert Moore / National Geographic

文=Dan Vergano

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