インド、政権交代で希少な鳥が絶滅?

2014.07.14
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
写真のつがいのようなヒメシワコブサイチョウの繁殖可能個体は、近年では全体の10%足らずにまで減少している。

Photograph by Dhritiman Mukherjee
 1カ月あまり前に発足したインド新政府に対して、同国の貴重な環境資源を保護する取り組みが不十分ではないかと懸念する声が上がっている。 新政権は選挙からわずか数日のうちに、環境への懸念から長らく保留となっていた複数の防衛計画に許可を出した。プラカシュ・ジャバデカル(Prakash Javadekar)環境森林相はさらに、国家安全保障にかかわる計画への許可を迅速化する意向を表明している。

 そのほか環境森林省は、産業活動促進のため、森林の定義を緩和する決定も下した。また新政府は、グリーンピースなどの非営利環境保護団体の資金調達に規制を加えようとしている。同国の鉱山、石炭火力発電所、原子力発電所などの計画に反対するグリーンピースは「国家の経済安全保障に対する脅威」だと政府は述べている。

 しかし、安全保障を重視する新政府の最初の犠牲者となるのは、奇妙な姿をした鳥のヒメシワコブサイチョウかもしれない。絶滅危惧種のヒメシワコブサイチョウ(Rhyticeros narcondami)は、インド亜大陸の東1287キロ、ミャンマー(旧ビルマ)の近くに位置する小さな火山島、ナルコンダム島にのみ生息する種だ。

 インドは、ナルコンダム島から122キロの距離にあるミャンマー領の大ココ島に、中国がインドの通信を傍受するための“聴音哨”を設置したと主張しており、対応策としてインド政府はナルコンダム島にレーダー基地を建設する計画を復活させた。

 レーダー基地の建設計画は、前政権が2012年に却下している。主な理由はヒメシワコブサイチョウの保護だったが、今回はそれが計画を止める理由にはならないかもしれない。

◆ヒメシワコブサイチョウが全滅?

 ヒメシワコブサイチョウは、1873年にその存在が報告された。コサギと同じくらいの大きさで、つやのある黒い体と翼に、大きすぎる黄色いくちばしと、目立つ白い尾羽をもつ。

 現存する個体数はわずか350~400羽だが、近年その数は比較的安定している。この鳥の生息域はわずか7平方キロ弱と狭く、飛行距離も短いため、ナルコンダム島でしかその姿を見ることはできない。

 ヒメシワコブサイチョウの生息域は、1969年にインド警察の派出所が島に設置されたことで縮小した。警察は薪にするため樹木を伐採し、自給自足用の農地にするため土地を開墾した。さらに野生と家畜のヤギ数百頭が下草を食べ、森林の再生を阻害したために、ヒメシワコブサイチョウが巣を作れる場所が減少した。

 その後ヤギを除去したことで、ヒメシワコブサイチョウは個体数を見る限りでは良好な状態を保っている。しかし、1999年には繁殖可能な個体が全体の半数以上を占めていたのに対し、2014年6月現在では全体の10%を下回っている。

 インド、コーヤンブットゥールにあるサリム・アリ鳥類学・自然史センター(Salim Ali Center for Ornithology and Natural History)の研究員シリシュ・マンチ(Shirish Manchi)氏は、この減少傾向は生息環境の質が低下したためと推測している。繁殖可能個体の減少は、ヒメシワコブサイチョウの遺伝的多様性をさらに低下させている可能性があり、「病気のニワトリが1羽でも島に入ってきたら、個体群が全滅することも考えられる」とマンチ氏は述べる。

◆小さな島の大きな計画

 この小さな島に持ち上がっているインド沿岸警備隊の開発計画は大規模なものだと、ムンバイにあるボンベイ自然史協会(Bombay Natural History Society)の理事アサド・ラーマニ(Asad Rahmani)氏は述べる。

 レーダー施設は丘の上のわずか6500平方メートルほどの土地に建てられ、それ自体は鳥に大きな悪影響を及ぼさないが、沿岸警備隊がラーマニ氏に説明したところによると、丘の上まで鳥の繁殖域を通って道路を建設する必要があり、さらに技術者や管理者の住居、ヘリコプター発着場、それらに電力を供給する大型の発電設備を建設しなければならないという。

 インド国防省は、沿岸警備基地などの国家安全保障の問題は、環境保護の問題に優先すべきだと主張している。インド政府も、中国の“聴音哨”(その存在は現時点でははっきり確認されていない)が、インドの衛星・ミサイル発射基地、およびインド海軍の動向を監視する可能性を懸念していると述べている。

◆自然と開発

 そうした状況下で、新政府のジャバデカル環境森林相は、森林伐採許可の迅速化を推し進める意向を示している。インド北東部のアルナーチャル・プラデーシュ州など、中国との国境付近に全長5955キロの道路を建設し、加えて新たな陸軍基地用に約49平方キロの土地を確保するためだ。アルナーチャル・プラデーシュ州は中国との国境紛争地帯であると同時に、9つの野生生物保護区を擁する生物多様性のホットスポットだ。

 しかし、陸軍基地や島のレーダー施設の建設計画は、まだ最終決定には至っていない。1972年制定の野生生物保護法により、保護されている森林や自然保護区の開発計画は、国家野生生物審議会(National Board for Wildlife)の審査を受ける必要があるが、新政府はまだ審議会を立ち上げていない。また環境保護活動家たちの反発を受け、ジャバデカル環境森林相は6月11日付のTwitterへの書き込みにおいて、ヒメシワコブサイチョウの件に関して計画を見直す考えを表明している。

 それでも、防衛計画の推進は新政府のほんの手始めに過ぎないかもしれない。ジャバデカル環境森林相は先週、国境地帯の道路のコースは今後、環境森林省の許可を必要とせず、自治体レベルで決定可能にすると表明した。

 同環境森林相は先ごろ、次のように発言している。新政府の発足以前、「環境森林省は障害物(中略)、成長スピードを妨げる存在とみなされていた。我々は自然に配慮しているが、一方で開発も進めたい。必要なのは決断であって、遅延ではない」。

Photograph by Dhritiman Mukherjee

文=Shruti Ravindran

  • このエントリーをはてなブックマークに追加