海軍ソナーからクジラを守る地上の戦い

2014.07.07
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『War of the Whales: A True Story』(クジラの戦い:真実の物語)の著者ジョシュア・ホーウィッツ氏は、この本によって海洋生物に有害な海の騒音への関心が高まることを願っている。

Photograph courtesy of Simon & Schuster
 2000年にバハマ諸島沿岸でアカボウクジラが集団座礁した一件は、世界に警鐘を鳴らした。いったい何が起こったのか? グランドバハマ海底谷に3000万年前から生息するクジラたちが、なぜ方向感覚を失い、浅瀬に逃げ込んで死んだのか? ジャーナリストのジョシュア・ホーウィッツ(Joshua Horwitz)氏は、答えを求めて探偵のように調査に乗り出した。このほど刊行された同氏の著書『War of the Whales: A True Story』(クジラの戦い:真実の物語)は、元海軍ソナー兵のクジラ保護活動家と、環境問題に取り組む弁護士の取り組みを描くことによって、米国海軍を相手取って起こされた歴史的な環境訴訟の内幕に迫り、海軍の極秘ソナープログラムの存在を暴き、クジラの集団座礁が決して過去の出来事ではないことを証明した一冊だ。

◆本の冒頭に、バハマ諸島のアバコ島で起きたアカボウクジラの集団座礁の件が出てきます。これはいったい何が起こったのですか?

 グランドバハマ海底谷に生息するアカボウクジラの一種が、安全な海底谷を捨てて海岸へと逃れ、多くがそこで死にました。

 その後、彼らが座礁した理由が明らかになります。米国海軍が行っていた深海ソナー演習が関係していたのです。この演習は、閉じた海底谷の一方の端から全体に向けてソナーを発し、演習用に海底谷に配置した海軍潜水艦2隻を探知するというもので、約265デシベルという非常に強力な中周波ソナーが使用されました。

 これはジェット戦闘機なみの騒音です。したがって、深さ約6.4キロ、長さ約160キロ、幅約80キロのバスタブのような形をした海底谷に、騒音の嵐が吹き荒れたと考えてください。

 クジラはこの海底谷に3000万年以上前から生息しています。クジラは深海のイカを餌とするため、たいてい水深1600メートル以下の海域で過ごしており、それが彼らの生態的地位(ニッチ)となっています。そのとき何が起こったのか正確なところはわかりませんが、クジラが非常に強力な音波にさらされたことはわかっており、それは海軍の自主調査でも確認されています。

(クジラの)多くは急いで海面へ浮上しましたが、これは危険です。人間と同様に、クジラも減圧症になるからです。一定数のクジラがまとまって、おそらくは生まれて初めて海底谷を離れ、最終的に海岸に乗り上げました。ほかの個体は死んで海底に沈んだとみられています。

◆この本では、米国海軍の極秘プログラムの真相にも迫っています。調査の過程で障害はありませんでしたか?

 対潜水艦戦ソナープログラムは、海軍の中でも機密中の機密ですから、調査は困難でした。

 現役で海軍に所属している人たちは、(広報の)担当者の立ち会いなしでは取材に応じないため、そのような話はできません。しかし、退役者ならかなり自由に話をしてくれることがわかりました。私は幸運にも、特に有力な情報筋にたどりつくことができました。冷戦末期に海軍のアクティブソナープログラムの構築に携わった人物ですが、環境保護運動に抗する海軍のやり方に不満を抱いていたため、私の取材に応じてくれました。

◆この本の“主人公”である、海軍出身のクジラ研究者ケン・バルコム(Ken Balcomb)氏と、環境問題専門の弁護士ジョエル・レノルズ(Joel Reynolds)氏の2人について教えてください。

 ジョエル・レノルズ氏は非常に優秀で頭の切れる環境問題専門の弁護士で、海軍を追求するため、陸上の騒音に関する法律を海洋にも適用する方法を考え出しました。一方のケン・バルコム氏は完全な一匹狼で、人間よりクジラといるほうが楽しいというタイプです(笑い)。もともと動物愛護の活動家というわけではありませんが、クジラが座礁したときバハマ諸島に居合わせたために、告発者の役目を負うことになりました。

◆米国海軍によるソナーの使用停止を求め、天然資源保護協会(NRDC)が提起した訴訟は、最高裁判所まで争われた結果、海軍側の主張を支持する判決が下りました。現在の状況はどうなっていますか?

 最高裁は米国で最も保守的な裁判所であり、海軍がこのような訴訟の1つを最高裁へ持ち込みたがったのは、おそらくそれが理由です。結果、海軍が勝利した。しかしNRDCの側も、カリフォルニア州とハワイ州で実施される爆発物とソナーの大規模プログラムをめぐって、今年初めに再び海軍を相手取って訴訟を起こしています。

◆この本を読む人に、どのようなメッセージを受け取ってほしいですか?

 最終的な勝利は存在しない、というのがこの本の教訓だと思います。ジョエル・レノルズ氏が私に言ったように、我々が得る勝利とは、戦いの場に踏みとどまり、再び法廷で争う権利を得ることなのです。たしかに最高裁は法的に海軍が有利であることを示しました。

 しかし大局的にみれば、この訴訟が起こされる前の20年間、海軍は基本的にブラックボックスの中で活動していたわけです。それが今では米国海洋大気庁(NOAA)の海洋漁業局に許可を申請し、環境への影響調査を提出することが義務付けられています。

 それでも、クジラの座礁がなくなったわけではありません。今年4月にも、米国、ギリシャ、イスラエルの海軍が地中海で合同演習を実施中に、アカボウクジラ5頭がクレタ島の海岸に乗り上げる事例が発生しています。

Photograph courtesy of Simon & Schuster

文=Simon Worrall

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