チベット人の高地適応はデニソワ人由来

2014.07.03
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中国のカイラス山付近で巡礼の旅をするチベット人の父親と息子。

PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE
 現生人類における自然環境への適応の特に顕著な事例は、近縁種との異種交配によって起こった可能性がある。 チベット人の生理機能は、大気中の酸素濃度の低い高地での生活に適応している。これはネアンデルタール人と共通の祖先を持つ初期人類のデニソワ人との異種交配の結果である可能性が高いことが、最新の研究によって明らかになった。

 今年はじめにも、現代人の多くがDNAの一部をネアンデルタール人から受け継いでいるという研究結果が発表されている。これと並んで今回の研究も、現代人のゲノムがさまざまな人類種の“複雑なタペストリー”であることを示すものだ。また今回の研究は、現生人類の繁栄の一因として、これまで見過ごされてきた要素を指摘している。現生人類は近縁種との異種交配によって、その土地に適応しやすい身体的特性を手に入れてきた可能性があるというのだ。

「こうしたことは人類史の中でたびたび起こっており、今回たまたまこの事例を確認できただけ、と考えるべきであろう。近縁種からの遺伝子の継承は、私たちの進化にとって重要であったと考えられる」と、カリフォルニア大学バークレー校のラスムス・ニールセン(Rasmus Nielsen)氏は言う。

◆高地での生活に適した遺伝子

 ニールセン氏らのグループはこれまでの研究で、現代のチベット人には、代謝経路に関係する遺伝子「EPAS1」に変異が見られることが明らかになっていた。低酸素環境における身体反応を制御するものであるため、ニールセン氏らはこのことが、チベット人が高地で生き延びる上で重要な役割を果たしてきたのではないかと推測した。

 海抜の低い地域に住む人が高地に行くと、その身体は血中で酸素を運ぶタンパク質であるヘモグロビンの量を増やして適応しようとする。ところがチベット人のヘモグロビン量はそれほど多くないので、ヘモグロビン濃度の上昇に伴う心臓への負担を避けられている可能性がある。

 チベット人の女性にはさらにメリットがある。妊娠中も高血圧になりにくく、高地での出産がさほど負担にならないのだ。

 ところが、チベット人のこの遺伝子の変異は、これまで知られている人類の移動のパターンに当てはまらず、遺伝子の出どころを突き止められなかったとニールセン氏は言う。

 そんな中、シベリア南部の洞窟で見つかった骨の断片から、デニソワ人という人類の近縁種の存在が2010年に確認された。発見された骨は小さかったが、ゲノムをほぼ完全に確認できた。

 今回の研究で、ニールセン氏のグループはチベット人40人と、中国の漢民族40人からDNAを採取し、デニソワ人のゲノムと比較した。その結果、デニソワ人のEPAS1遺伝子は、チベット人のものとほとんど同一であることが確認された。

「(異種交配による)遺伝子移入なしにこれほどの一致が見られる可能性はゼロだ」とニールセン氏は言う。

 現生人類とデニソワ人の異種交配が起こったのは3万~4万年前のことだろうとニールセン氏は言う。親しく交流していたかは不明だが、デニソワ人のDNAがその周辺の地域で現生人類の遺伝子プールに流入するのに十分なだけの関係はあったようだ。その後、現生人類がチベット高原に移り住む際に、デニソワ人に由来するEPAS1の変異が有利に働いたようで、自然選択の結果、現在この地域に住む人の大部分にこの変異が見られるのだという。

◆先住民との交流

ドイツ、マックス・プランク進化人類学研究所に所属する古遺伝学のスバンテ・ペーボ(Svante Paabo)氏は、デニソワ人の化石のDNA配列の分析を率いた人物だ。ペーボ氏は今回の研究の結論に同意している。「今回の研究は、人類の適応の特に顕著な事例がデニソワ人に由来していたことを示すものだ」とペーボ氏は言う。

 ただし、デニソワ人とチベット人において、EPAS1遺伝子が同じように機能したかどうかは分からないとロンドン自然史博物館の古生物学者クリス・ストリンガー(Chris Stringer)氏は指摘する。それでも今回の研究は「近縁種との異種交配を経て私たちのゲノムに“パッチワーク”的な追加が起こったことを示す新たな事例をもたらした」とストリンガー氏は言う。

 ニールセン氏の推測では、こうしたシナリオは先史時代に何度も起こっており、そのおかげで現生人類は、約6万年前にアフリカを離れてから、目覚ましい早さで新しい環境に適応できたのだという。変異が自然に起こるのを待つのではなく、すでにその土地に適応した近縁種との異種交配を試みたのだ。

 文化面の移入もあったかもしれないとニールセン氏は言う。ただ今のところは、現存する遺伝情報のほかには手がかりがない。

「初期人類からの遺伝子の流入は、現生人類の生理機能に重要な役割を果たしてきた。将来的にはほかにも同様の事例を確認できるだろう」とペーボ氏も言う。

 ニールセン氏らのグループによる今回の研究結果は、7月2日付で「Nature」誌に発表された。

PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE

文=Brandon Keim

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