イラクのクルド人、独立はあるのか

2014.07.02
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石油資源に恵まれた都市キルクークで、過激派武装組織ISISの兵士の動きを警戒するクルド人兵士(6月17日)。

PHOTOGRAPH BY ANADOLU AGENCY / GETTY
 イラクで勢力を拡大しているイスラム教スンニ派の過激派武装組織「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)。モスル、ティクリート、ラマーディーなどの都市を次々と制圧し、首都バグダッドに迫りつつある。一方、混乱に乗じて支配地域と自治権の拡大を推し進めようと図る民族が、イラク領内に居住するクルド人だ。 ISISはこの数カ月間に、シリアからイラクへと勢力範囲を拡大。両国の国境にまたがる地域で、カリフ(予言者ムハンマドの後継者)が統治するイスラム国家の樹立を宣言するに至った。攻勢を強めるISISを前にイラク軍は敗走を重ねているが、クルド人の民兵らは国境でISISの進撃を阻止し6月12日、石油資源の豊富な北部のキルクークを占拠した。

 イラク国内の政情不安に加えて、油田獲得に意気上がるクルド人自治政府のマスード・バルザニ(Masoud Barzani)議長は、新たに占拠した地域を譲り渡すつもりはないと言明する。

 だが、クルド人の独立気運が高まりを見せる背景を掴むには、今回の動乱以前の歴史を振り返る必要がある。オスマン帝国の崩壊後、イラク王国が樹立されたおよそ100年前から、トルコ、シリア、およびイランとの国境地域に居住していた北部クルド人は、バグダッドの中央政府と対立を続けてきた。

◆クルド人の苦難の始まり

 共通の言語を持ちながら自身の国を持たない世界最大の民族で、推定人口は3000万人とも3500万人とも言われている。苦難に彩られた民族の歴史を紐解いてみよう。

 数世紀にわたってオスマン帝国と歴代のペルシャ王朝がにらみ合う前線地帯で暮らしていたクルド人は、19世紀まで独立した小部族が寄り合って共同体を形成していた。2つの大国の狭間での生存を余儀なくされ、両国間の戦争ではそれぞれの代理として出兵させられることも少なくなかったが、ある程度の自治は維持されていた。

 イギリス、エクセター大学の専門家クリスティン・アリソン(Christine Allison)氏によると、現代のクルド人の民族自決意識の核心は、小部族の共同体時代に形成されたという。「独立した各地域では、ナショナリズムを象徴する初期の“クルド主義”が認められる」。

◆クルド人離散の経緯

 だが彼らの悲願は、第一次世界大戦後にヨーロッパ列強が主導したオスマン帝国の領土分割によって、なにがしろにされてしまう。

 もっとも、当初は新たな地域秩序の中でクルド人の自治領が認められるはずだったが実現にはいたらず、トルコ、シリア、イラク、イラン、アルメニアの5カ国への離散状態が固定化してしまった。

 その後90年あまりにわたって、多くが独自の言語や文化を維持しながらも、居住する各国の政治情勢に左右される中途半端な立場に置かれている。独立を目指す武力闘争や、自治権獲得、または共存を目指すなど、それぞれ異なる事情を抱えて現在にいたっている。

 イラク北部には現在およそ400万人のクルド人が居住しているが、彼らは国の規範には従わず、政治的指導者もイラク政府の権威を認めていない。

◆クルド人とイラク政府との対立

 1970年代、サダム・フセインのアラブ化政策が実行に移され、イラク北部へのアラブ人入植が活発化。さらに1980年代後半、フセインは化学兵器で攻撃、国際的な非難を浴びる。

 1991年、第1次湾岸戦争の終結後、居住地上空が飛行禁止区域に指定され、多国籍軍が実効支配する。ようやく自らが投票する選挙が実施され、クルディスタン地域政府(KRG)が樹立された。

 しかし、バグダッドの中央政府とKRGとの溝は、イラク戦争勃発の2003年以降、さらに広がっていくことになる。

 最近も、クルド人勢力の指導部と現マリキ政権は、石油の利益分配やクルド人居住地域の境界線、独立したクルド人民兵に対する予算支出などをめぐって対立を深めている。ISISの台頭によるイラク体制の動揺が、クルド独立への意識向上を促していることは間違いない。

◆新たな現実

 だが、前途には依然として大きな問題が立ちはだかっている。イラク領内のクルド人は居住地が内陸部にあるため、周囲の他民族との協調がなければ海へ出ることができない。クルド人が独立した場合、産出した石油を陸路で輸送できるよう彼らに協力を仰がざるを得ないだろう。

 また、ISISの勢力拡大に乗じて版図を広げたといっても、クルド人居住地域とISISの支配地域は現在、約1000キロにもおよぶ境界線で接している。当然、一帯はISISにいつ進攻されてもおかしくない危険な前線地帯であり、クルド人の安定を脅かす大きな要因となっている。

 さらに、数十万人にのぼる難民の存在が問題を複雑化させている。物資不足で生活を圧迫しており、現在はガスの供給も至るところで滞っているという。

 新たな現実からさまざまな困難が生じている一方で、イラクの国家分裂が現実のものとなれば、クルド人にとって事態が大きく変化することは間違いない。前出のアリソン氏は次のように話す。「クルド人国家という構想は、多くの人にとって紛れもなく現実味を帯びてきている。今後はいかなる政治情勢も、クルド人居住地を除外して考えることはできないだろう」。

PHOTOGRAPH BY ANADOLU AGENCY / GETTY

文=Avi Asher-Schapiro

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