スイスにある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の実験装置の1つであるATLAS検出器。2012年7月に発見されたヒッグス粒子の検出で活躍した。

PHOTOGRAPH BY REX FEATURES VIA ASSOCIATED PRESS
 2012年にヒッグス粒子、いわゆる“神の粒子”を発見した欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)が、次期大型プロジェクトに向けて2年振りの再稼働を迎えている。整備とアップデートが終了したLHCの出力性能は従来の2倍にパワーアップ。専門家によると、前人未踏の高エネルギーレベル13TeV(テラ電子ボルト)で運用可能になるという。 世界で最大かつ最強の粒子加速器LHCは、幻のヒッグス粒子の検出によって一躍その名を馳せた。別名“神の粒子”ヒッグス粒子は、宇宙の物質に質量が存在する原因を説明するカギとされる。2013年には、その存在を1960年代に最初に予言した2人の理論物理学者に、ノーベル物理学賞が授与された。

 LHCは、フランスとスイスの国境をまたぐ全長およそ27キロの円形のトンネル内に設置されている。性能強化によって、新たな粒子がさらに発見される可能性もある。

 素粒子物理学者のファビオラ・ジャノッティ(Fabiola Gianotti)氏は、「ヒッグス粒子は出発点にすぎない」と話す。同氏は、初観測に成功したATLAS(A Toroidal LHC Apparatus)実験の広報担当者を務めた。

 陽子ビームどうしを光速に近い速度で衝突させるため、LHCの加速装置には強力な超伝導磁石が全面的に採用されている。

 先週、LHCの全体の8分の1が、宇宙空間よりも低いマイナス271.3度にまで冷却された。一方、陽子イオンを供給する加速器も、その一部が稼働を開始。どちらも、整備とアップデートのために停止した2012年以来の運用となる。

 CERNのロルフ・ディーター・ホイヤー(Rolf-Dieter Heuer)所長によると、新しく生まれ変わった加速器で2015年1月に実験が再開される計画だという。

 デンマーク、コペンハーゲンで開催中のユーロサイエンス・オープンフォーラム(Euroscience Open Forum: ESOF)の記者会見でホイヤー氏は、「物理学にはまだ、やるべきことが山ほどある」と語った。

◆ヒッグス粒子の“兄弟”粒子を発見できるか

 2010~2012年の第1期は7~8TeVがリミットだったLHCだが、2015年には13TeVでの運用を目指しているという。より高いエネルギーどうしの衝突は、質量の大きな粒子の出現につながるため、従来よりさらに重い粒子が発見される可能性もある。

 例えば超対称性理論によると、ヒッグス粒子には質量がほぼ同じで電荷が異なる“兄弟”粒子が4種類あるとされる。

 CERNと共同研究を行っているフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のサミラ・アッサニ(Samira Hassani)氏は、「エネルギーのレベルを上げれば可能性は高まる」と話す。

◆暗黒物質の存在を裏付ける発見にも期待

 また、ヒッグス粒子がほかの粒子とどのように相互作用するのかという研究テーマについても解明が進められている。

 CERNは22日、ヒッグス粒子がフェルミ粒子(電子に代表される量子力学的粒子)に崩壊した事実を示す研究結果を「Nature Physics」誌オンライン版に発表した。

 これは、ヒッグス粒子の振る舞いが、素粒子物理学の標準理論に従うという学説を支持する結果である。自然界に存在する4つの基本的な力と基本粒子が、どのように相互作用するのかを記述した理論の1つで、一致する実験結果が既に何回も確認されている。

 さらに、高エネルギーレベルのLHC第2期は、ヒッグス粒子が物理学への新たな扉を開き、宇宙の成り立ちに関するまったく新しい理論が生まれることも考えられると、前出のジャノッティ氏は期待している。

 現代の物理学では、暗黒物質(ダークマター)が宇宙を構成する物質の95%を占めるという理論が提唱されている。従来から観測されてきた銀河や惑星、恒星など目に見える形で存在する物質は、宇宙全体のわずか5%にすぎないという。

「すべての研究は、標準理論がベースになっている。だが暗黒物質の問題は依然、結論が出ていない。われわれが期待するのは、新たな理論、新たな物理学であり、それは必ず突き止められるはずだ」とCEAのアッサニ氏は語る。

 ジャノッティ氏も最後にこう付け加えた。「2015年には第2期の運用が始まる。暗黒物質の存在を裏付ける粒子の探索が成就するよう祈っている」。

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文=Christine Dell'Amore in Copenhagen